第122話 この大馬鹿野郎が
「日向の奴、参ったな。また派手に暴走しやがって。なにもタンクローリーまで飛ばしてビルを破壊すること無かっただろうに」と呆れた様子で回顧する浩紀だった。アジトに帰還したところで、皆が小さい冷蔵庫を取り囲むように集まっていて、何かを見つめていることに気付く。
「どうした。何があった」
「そ、それが……」と職員の一人が冷蔵庫を指差して何とも言えない表情で言う。
中にあった食べ物や棚などが粗雑に散乱していた。浩紀がそれらを退かして近づき、アルコール不足で無性に腹を立てている酔っ払いが缶ビールを求めるかのように冷蔵庫の扉を粗っぽく開けた。
寒さに震える小動物のように、雅人が空いたスペースにすっぽり嵌まって小さく蹲って塞ぎ込んでいた。憔悴しきっており、悲壮感漂うその姿に一同言葉を失う。
「何してる」ひとまず冷静に問いかけたが反応は無かった。ふと、雅人の右手首に黒色のリストバンドが付けられているのが分かった。
「その右手首にあるそれは何だ」と指差して尋ねる。
「俺は……人間を、辞める」
今にも消え入りそうな声でボソッと告げる。それを聞いて居たたまれなくなった浩紀は遂に堪忍袋の緒が切れ、これ以上は埒が明かないと判断して雅人の腕を掴んで力づくで引っ張り出し、決まり悪そうに奥の部屋へ連れ込んだ。
「中身を片付けろ」と言って部屋の扉を勢いよく閉めて金属と金属がぶつかる鈍い音が響き渡った。職員たちは浩紀の指示に従って渋々散乱した冷蔵庫の中身を元に戻し始める。
無機質な部屋に雅人を引きずり込んだ浩紀が、フリーキックを決めようとするプロサッカー選手のように腹部を勢いよく蹴り飛ばし、その際に体が宙を舞い、壁に激突して落下した。雅人は腹部を押さえて声を出さずに悶絶する。
「もう一度聞く。その手首に付いてるリストバンドは何だ」
「し、知らない……いつの間にか付けられてたんだと思う」
「お前と対峙したあの二人も同じようなものを付けていた。あいつらのことだ。どうせ探知機でも仕込まれているんじゃないのか」浩紀が無表情で問い詰めるも、雅人は力なく蹲って何も答えない。
「城崎は? 連れて来いと言った筈だ」
「ううっ」と嗚咽する。質問を投げかけても何一つはっきり答えない雅人に遂に憤慨して暴行を加え始める。
「折角お前を信じて城崎の捕獲を任せたのに、何だそのザマは!」怒髪天を衝いて一方的に蹴り続ける。
「ぐはっ」
「こんな大変な時にそんなもの付けられた挙句、手ぶらでノコノコ帰りやがって。どういうつもりだこの野郎! それに『人間を辞める』だと? ふざけるのもいい加減にしろ!」爆発する怒りをぶつけるように殴ったり蹴ったりの暴力を振るい続ける。傍から見れば、無抵抗な雅人を一方的にいじめているようだった。
「この間抜けが。こっちは命を懸けてるんだ! お前のその軽率な行動が、今後の計画を左右することだってあるんだぞ。そうなったら落とし前つけられるのか、なあ! 今までの苦労を踏み躙るんじゃねえ。分かってんのか? この、大馬鹿野郎がぁ!」
浩紀が勢い余って雅人を一思いに蹴り飛ばし、雅人の身体が天井近くまで跳んで壁にぶつかって落ちた。
気が済むまで滅多打ちにした後、傷と痣だらけで伸びていた雅人を見て一仕事終えたように深い溜息を付く。そして「全く」と言いたげな表情を浮かべながら雅人を起こして手当を施した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます