第121話 閃光
その時、陽助は何かを感じ取って一階のボタンを押した。
「どうしましたか?」職員の一人が戸惑った様子で訊ねる。
「胸騒ぎがした。一旦降りて確認してみる」先ほどまでの居丈高な振る舞いとは打って変わって、幾つもの戦場で戦い抜いた百戦錬磨の兵士のような雰囲気を漂わせている。その表情は真剣そのものだった。
エレベーターが一階に着いて開いた。陽助が敵に見つからないように姿勢を低くして降りていき職員も後に続く。時刻は午後九時を回っており、ビルの玄関は既に閉まって人の出入りが出来ない状態にあった。
ガラス張りの向こうには夜の帳が下りて新宿のオフィス街が広がっており、オフィスや街灯といった無数に灯る明かりによって輝きを放っている。
「間違いない。何かいる」と訝しげな表情で周囲を見回して気配の発生源を探った。二人の職員も陽助を真似てあたりに目を配る。
陽助が何かを察知して正面玄関を向いた。すると、鍵をかけていた筈の自動ドアがひとりでにゆっくり開いて、全身に真っ白な異国風の衣装を身に纏っており、変わった杖を持った一人の男が空中に浮遊した状態で颯爽と入って来た。
さながら神父のような恰好をしていた男は異様な雰囲気を醸し出しており、その上威容を誇っていて、後光が差し込んで見える。思わぬ光景に陽助と職員は呆然とする。洸太も男の存在に気付いて顔を上げて目を疑う。その独特の風貌を見て、洸太はあの時倉庫で出会った男だということを思い出した。
「だ、誰だお前は!」陽助が男に向かって叫んだ。男は何も答えず、手にしていた杖を振り上げた途端に前に真っすぐ突き立てる。その瞬間、杖から弾丸のように打ち込まれた小さな衝撃波が陽助と洸太を拘束していた職員の二人を突き飛ばした。
「こ、こいつ!」大きく後方へ飛ばされた陽助は男を敵と見做して瞬く間に立ち上がり、男に向かって殴りかかろうと走っていった。
「閃!」
謎の男がそう叫ぶと、杖の先端が太陽のような光を放ち、やがて直視できないほど光度は次第に増していった。光が空間に満ちたその直後、周囲は元の明るさに戻った。あまりの明るさに怯んでいた陽助達は、突然現れた謎の男と洸太の姿が何処にも無く、付けていたリストバンドも破壊されて地面に落ちていることに気付いて驚嘆する。
「奴を追え! まだそう遠くへは行ってない筈だ。必ず探し出せ!」
陽助と職員たちは人手を増やして消えた男と洸太の捜索に当たった。
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