第115話 目には目を、歯には歯を

「あいつは平沼を殺したんだ。目には目を、歯には歯をというやつだよ。俺はあの時あいつに殺されて死ぬつもりだったんだぜ。それなのにお前らは、必死こいて邪魔をして俺をあの場から助け出した。だから余計に被害が拡大したんだろうが」


 と悪びれるどころか、逆に開き直って洸太と陽助に責任転嫁するように淡々となじり、それを受けて陽助が憤慨して即座に腕を突き出し、念力で城崎の首を遠隔で掴んだ。


「ぐっ、離せよ!」


「てめえ、さっきから黙って聞いてりゃ、好き放題言っていい気になりやがって。ふざけるのもいい加減にしろ! あと何人犠牲になったらお前の気が済むんだ。なあ! そんなに死にてえなら、今ここで俺が殺してやろうか!」


 と、手足をじたばたさせて抵抗する城崎の首を絞めながら、怒気を込めた口調で捲し立てた。何を言っても止まらない程かなり興奮している。


「ああ、そうだ。一思いに殺せ! そうすればお互い楽になるだろうよ!」と陽助を嗾けて早く殺してくれと言わんばかりに、全身から力を抜いてされるがまま身を預けるようにした。


「嘗めやがって!」城崎の口車に乗せられて更に首を絞める力を強める。ここで止めなければ、陽助は怒りに身を任せてうっかり殺してしまうだろう。


「うわっ……ぐっ」


「陽助、落ち着け。殺しちゃ駄目だ!」


「うるせえ。俺に指図するな。こんな奴生かしてもしょうがねえよ」


「ここで殺したらそれこそ城崎の思う壺だ。口は達者だが、彼は僕らと違ってあくまで一般市民で超能力は使えない。ここに閉じ込めておく分にはこっちとしては好都合だ。僕らのやることは、早急に日向を捕まえて事態を収拾し、城崎を警察に引き渡すこと。そうだろ!」と、怒り狂う陽助を宥めるように説得し続ける。


「どうせ逮捕されたところで少年院にぶち込まれて、何年かしたらまた出てくるだけだ。そういうもんなんだよ少年法っていうのは。だったらいっそのことここで殺しといた方が、こいつから酷い仕打ちを受けた人たちも浮かばれるだろうよ」


 洸太が無理矢理割り込んで陽助の腕を抑えて止めるように訴えたが、それでも聞く耳を持とうともせず、城崎の首を更に強く締め付けた。


「たとえそうだとしても、城崎の身柄は警察に引き渡すべきだって父さんに言われただろう。君はそんな父さんの意思に背くっていうのか!?」


 父さんというワードを聞いた途端に、陽助が動揺する様子を見せ、歯ぎしりをして苦悩した末、「くそぉ!」と吐き捨てて、城崎の身体をすかさず引き寄せて念力を解除した。


「うっ!」身体を勢いよく引っ張られた城崎は、驚いている間も無くそのまま顔面を強化ガラスに強打してしまい、後ろに倒れた。両手を顔に当てて暫く悶絶する。


「くそが。さっさと日向を捕まえて、こいつを刑務所にぶちこんだらそれで仕舞いだ。それで文句無えだろ!」と言って、そのまま後ろを振り返らず歩き始める。


「どこ行くの?」


「虫の居所が悪い。これ以上こいつと話してると俺の気が狂いそうだ」とだけ言い残して、元来た通路を歩いていった。


「そうか。僕はまだ聞きたいことがあるから残るよ」そう言って洸太は城崎に向き直り、独房へ近づく。

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