第114話 城崎の不満
「何だ、お前らか。光山と……」洸太の隣にいる陽助を不思議そうに見た。
「倉本陽助だ。自己紹介遅れて悪いな。新居の住み心地はどうだ」
「何だよこのせせこまい部屋は。まるで刑務所だな。シャワーしたいときは部屋を出るためにいちいち職員を呼ばなきゃいけないし。あとここのトイレに蓋が付いてないとかあり得ないんだけど」と早々に不平不満を垂れる。居心地悪そうにしていたようだ。
「世界一安全な部屋であることは保証してやる。少しの間辛抱しろ」
「世界一安全ねえ。せめてトイレの蓋は付けてくれるとありがたいんだけど。おまけにこんなダサいリストバンドを手首に勝手に付けてくれちゃってさ。どうやって外せるの?」城崎は終始横柄な態度を取っていた。
「お前がどうしようが絶対に外れないし、下手に外そうとしたら、神経を刺激して痙攣を引き起こす特殊な電流が流れるから触らない方がお前の為だ」
「こんなものさえ無けりゃ、いますぐその強化ガラスをぶっ壊してこんなところ出てってやるのにさ」
「殴ったり蹴ったりするだけじゃ、この分厚いガラスはびくともしないぜ。運よくここから脱出出来たとしても、発信機が組み込まれてあるから監視の目から決して逃げられない。観念するんだな」
「どういうつもりなのさ。酷い扱いだな。俺は囚人もとい犯罪者でもないんだけど。寧ろ被害者だ。これがボディガードの務めかよ。最早ボディガードというより警察の仕事だな。こうなったのもお前の所為だからな、光山」城崎は殺意を込めた目を向けながら言い放つ。洸太は目を合わすまいと終始俯いていた。
「聞いてんのか? 元はと言えばお前たちが招いた事だからな。どう責任取るつもりだ、おい! お前らさえいなければ、俺の人生は完璧なものになってた筈なんだ!」
口を開かない板越しの洸太に対して、苛立ちが募って鬼のような形相で突っかかってきて、プラスチックの板を「パンッ」と強く叩く。洸太は驚いて一歩引いて冷ややかな目で見ただけだった。
「保護されてる身分で図に乗るんじゃねえぞ。お前の所為でな、どれだけ大勢の人が死んだのか分かってんのか? それについてどう落とし前をつけるつもりだ、なあ! そうやって文句垂れるくらいなら、せめて『ありがとう』の一言ぐらい言ったらどうだ」と、そんな城崎に陽助が、板に顔を近づけて脅迫的な口調で喝破した。真っ当なことを論われた城崎は何も言い返せなったが、威迫に屈することなく鋭い視線を向ける。
「暫くの間そこでじっとしてろ。それと、こうして守ってやってるだけでもありがたいと思うんだな」
「フン。まあ、家に居るよりかは保護された方が断然良いけどさ。で、その間に俺を餌にあいつを誘き寄せて、ミッションなんちゃら的なことをやって捕まえるんだろ?」と、ベッドに戻ってふんぞり返って言った。
「それも作戦の一つとして検討しといてやるよ」
「何でもいいからとっとと日向を捕まえてくれよな。そしたら帰れるんだろ?」
「お前まさか、この件が終わったら家に無事に帰れるとでも思ってんのか。自惚れてんじゃねえよ」
「何?」
「ついさっき、日向の母親の殺害を指示した首謀者として、お前を警察に突き出すことが決定した」
「何だ、そのことか」とあからさまに肩を落とす。
「治療中で無防備だった日向の母親を殺すなんて……」と、洸太が犯罪者を見るような不快な目を向けながら、残念そうに呟く。
「天命だったのさ」
「何だと?」城崎が思いの外誇らしげに答えたことに、陽助がイラッとして無意識に聞き返す。
洸太が陽助をチラッと一瞥したところ、眉間に皺を寄せて拳を強く握りしめて震わせていた。怒りを抑えるのに必死のようだ。それはまるで、ぐつぐつ沸騰する鍋に辛うじて覆い被さっていた蓋がカタカタと動くのに似ていた。
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