第108話 因縁の再会

「まさかここまで力の差があったとは……二人とも念力を最大限に引き出せている筈だろうな?」現場に近いところで撮影している偵察用ドローンから送られてくる映像を、モニター越しで見ていた倉本が驚愕していた。


「はい。二人とも血液の変換作業及びサイコブレイクを乗り越えた状態で実戦に臨んでいます。エキストリミスも服用済みとのことです。やはり、予想を遥かに超える敵の戦闘力に対抗しようと念力を使い果たしてしまったのではないかと」と訊かれた職員が慎重に言葉を選びながら答えた。


「陽助……」と拳を握りしめ、どうか無事に帰って来てくれとお願いするように、苦虫を噛み潰したような表情でモニターをじっと見つめる。



 漸く二人を退けた雅人は、城崎が隠れていたひしゃげた車を退かした。城崎は小さな羊のように足を震わせながら立ち上がる。遂に対面を果たすことが出来た。


「おーい! あらゆる脅威から守ってくれるんじゃなかったのか!?」と倒れている二人に向かって叫んだが、反応は無かった。


「覚悟しろ、城崎。お前で最後だ。お前が岡部の人生を狂わせたのと同じように、俺がお前の人生を狂わせてやる」


「何だ、その程度だったか。二人して負けるとか情けねえな。それでもボディーガードかよ。見掛け倒しにも程があるぜ」雅人に対する恐怖心を必死で拭うように、奥で伸びていた二人に向かって声高に論う。


「怖いのか」と城崎の恐怖心を見透かしたように訊く。


「笑わせるな。お前なんかに今更ビビるかよ。どうせ俺みたいな人間がバケモノのお前には到底敵わないからな。だから潔く負けを認めてやるよ」


「やめて!」とそう叫んで横転していた車の影から小動物のように怯えて現れたのは茜だった。遠くで見ていた洸太と陽助も突然の出来事に戸惑いを隠せない。


 洸太は、茜は戦いのどさくさに紛れて車から降りて駆けつけたのだろうと見た。それだけ城崎のことが好きだということなのだが、異性を好きになったことも好かれたことも無い洸太にとってはいまいち理解に苦しむ。それ故に共感出来ない。


 ひとまず分かったのは、あの時かけた言葉が少しも茜の胸に響かなかったことと、好きな人に会いたいという強い気持ちは、たとえこの混沌とした状況においても決して揺るがないということだ。目の前に居る二人でそれが証明されている。


「真を殺さないで!」と雅人に向かって訴えかける。


「茜! どうしてここに……」


「心配だったから!」と緊迫した状況に怯える自分を奮い立たせるように叫んだ。


「あのさ、どこの誰だか知らないけど、邪魔しないでもらえるかな」早く失せろと言わんばかりに雅人が若干鬱陶しそうに言う。


「そうだ、お前は急いでここから逃げろ。じゃないとお前まで無事じゃ済まないぞ」


「何があったの? ていうかこの人、まさか……」


「ああ、例の日向って男だ」


「日向……そうか。そういうことね」


 状況を理解した茜が両目を瞑って大きく息を吸う。吸った息を吐き終えたと同時に両目を開け、決意めいた顔をして突然城崎の前に出て雅人と向かい合った。


「もし殺すなら、あたしを殺して」


「なっ、それってどういう意味だ、茜」


「あの夜、この人の母親を殺したの、あたしなの」茜が覚悟を決めて何の迷いも無く自信満々にそう打ち明ける。

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