第107話 凸凹コンビ
「何の話だ」
「恍けてんじゃねえ。お前が飛行場を襲って何かを盗んだことは分かってんだよ。一体何を奪ったんだ!」
「フン、今度は犯してもいない罪を擦り付けて濡れ衣を着せるつもりか。どこまで卑怯なんだお前らは」
「何が濡れ衣だ、真実だろうが。往生際が悪いんだよ!」
「しつけえな。だから知らねえって言ってんだろ。この分からず屋どもが」
「嘘ついても無駄だぜ。あれだけの被害を出せるのはお前しかいないんだからな。いい加減認めろ」
「言いがかりも甚だしい。そんなもん所詮状況証拠だろ。同行してほしいならまず確実な物証を揃えてから出直して来いよ。確証も無いのに根も葉もない出鱈目なこと抜かすんじゃねえ!」
「んだと、この野郎ぉ!」と、陽助が憤激してつい声を張り上げる。
「陽助、これ以上は水掛け論だ。確かにあいつの言う通り、俺たちに確固たる物的証拠が無い以上決め手に欠ける。よって、推定無罪の原則に則ってあいつは罪に問われることは無い。疑わしきは罰せずだ」
これ以上二人が押し問答を続けても無意味だろうと感じた洸太が割って入って無理矢理終わらせた。
「うるせえ、そんなもん知るか。言われなくても俺は力づくで吐かせてやるつもりだからなぁ!」
「フッ、上等だぁ!」と陽助が雅人に向かって猛進して、二人はそのまま近接戦闘に突入した。
目にも留まらぬ速さで繰り出されるパンチと蹴りの応酬。両者の怒涛のデッドヒートが暫く続き、陽助が隙を突いて雅人の背後に回った瞬間、感づかれて背負い投げされてしまった。勢いが強すぎて身体がアスファルトの地面にめり込んだところで、雅人は陽助の腹部を容赦なく踏みつけて蹴り飛ばす。
今度は洸太が雅人に肉弾戦を挑んだ。東から指南を受けて修めたあらゆる武術を駆使して闘う。また、短期間ながら過酷な修行と鍛練を経て身に付けた、無限に湧き上がって身体全体に駆け巡る霊的エネルギーを、無意識に力に変換させる方法も活かして、敏捷性と筋力をアップさせる。
これによって身体能力が上がり、雅人の殴打と蹴りをいなしつつ、パンチを連続で繰り出して少しずつダメージを与えられるようになったが、それでも雅人の方が優勢だった。
「くっ……日向、もうやめろ! 神妙にしてくれ!」
「胡麻擂りのお前が、良い気になってんじゃねえ!」
油断しているところを狙って、念力で拘束して押さえつけようとした洸太だったが、雅人が念力で弾き返してしまう。洸太はここまで自分の念力が劣っていることに動揺を隠せなかった。
「うっ、何で……」
「俺はなあ、ただ燻ってたわけじゃあない。考えが甘ぇんだよ!」
洸太がまごついている間に、雅人は近くに落ちていた太い鉄橋のケーブルを浮かして二人をきつく巻きつけた。体にきつく巻き付いたケーブルが、蛇のようにくねくねとくねらせながら上下左右に激しく動き回り、その後天高く上がったところで地面に勢いよく叩きつける。
凄まじい轟音とともに大量の粉塵を巻き上げ、円形に陥没したアスファルトの道路に四方八方に走った無数の亀裂が、まるで張り巡らした蜘蛛の巣のように、その衝撃の激しさを物語っている。
圧倒的な力の差を見せつけて二人を完封したとともに、やはり洸太と陽助が互いに対立して互いに互いを意識し合い、入れ替わり立ち替わりで雅人に一対一で戦いに挑んでしまったことが敗北に繋がった。もし対立せず上手く連携を取って戦っていれば、健闘もしくは雅人を押さえられたかもしれない。
「あぁ、目が……左目が、痒い……くっ」左目が突然燃えるようにヒリヒリするような感覚に襲われた。
どうして突然左目だけが痒くなったのか自分でも見当が付かなかった。雅人が痛みを振り払おうと、左手で痒くなった左目を執拗に擦ったが、痛みは一向に収まらない。原因は今考えても埒が明かないので、雅人は訳も分からず疼き出した左目を押さえながら、城崎のところへ直行する。
「クソ……二対一でも倒せないのか」と、声を振り絞って漏らす陽助だった。
着ていたギアスーツのお蔭で身体的ダメージは少ないものの、いかんせん念力を過剰に使ったことにより体力の消耗が激しく、辛うじて立ち上がれるだけの力しか残っていなかった。まさに満身創痍だった。
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