第105話 思わぬ再会
洸太は城崎が車から降りたところを目撃した。車の進行方向とは逆の方向へ歩いて来る。この混乱に乗じて逃げるつもりだろう。ここで逃げられたらいつどこで雅人が襲って来るか分からない。そうなったら相手の思う壺だ。そのような事態は何としてでも回避しなければならない。洸太は城崎の進行を阻むように前に立ちはだかる。
「誰だお前は」
「大人しく車に戻れ」と、メットを被っていて発する声も自動で変換されているので、正体が割れることは無いだろうと読んでいた。
「見知らぬあんたにそんなこと言われる筋合いは無い。質問に答えろ。誰だって聞いてるんだ」
「誰だっていいさ。早く車に戻れ」
「お前、ひょっとして光山か……?」勘繰るように問いかける。
「えっ……」城崎の唐突な質問に動揺を隠せない洸太。どうしてそのように尋ねたのか城崎自身分からなかったが、目の前に立って進行を妨げている人物と洸太との雰囲気が一致したと、そこはかとなく感じ取った。
「何黙ってんだよ、さっさと答えろ!」
「それは……」
と返答に困ったその時、事故現場と思われる方向から何かの物体が高速でまっすぐ飛んできて、ボウリングのピンを薙ぎ倒すボールのように車の列に豪快に突っ込み、轟音と共に数十台もの車が吹っ飛んでいった。瞬間的にしか見えなかったが、向こうから飛ばされてきたのは陽助と見た。
「何なんだよ今のは!」と城崎が声を荒げて詰め寄ったが、洸太は勢いよく飛んできた陽助がクラッシュした方向をただ見続けていた。
「……事情が変わった。城崎真、君を保護する」事態急変の為、一旦ターゲットを安全な場所に逃がしてから陽助に加勢しようと即断した。洸太が腕を掴んできた瞬間、城崎が反射的に振り払う。
「触るな、汚らわしい。保護って、何から俺を守るって言うのさ」と、問いかけた城崎を他所に橋の奥へ視線を移す洸太。城崎も釣られて同じ方向へ向く。
「あらゆる脅威からだ!」と言った直後、一台の乗用車が放物線を描いて飛んできた。
「うわぁ!」と城崎があまりの恐怖に尻もちを着き、間一髪のところで洸太が念力で防いで空いてるスペースにゆっくり降ろす。
「あんな遠い場所から正確に狙って投げてくるなんて……」
「おい、何がどうなってるんだよ。説明しろ!」思いがけず声を上げて、きつく当たるように聞いた。突然目の前で起きた出来事に脳の処理と理解が追い付かず、狼狽している様子だった。
「何者かがお前の命を狙っている」
「まさか日向か。やっぱりそうだ。そうとしか考えられないからな! じゃあ、今のもあいつの仕業だっていうのか。何で最初に言ってくれなかったんだよ!」
折角お前を助けに来たのに何だその言い草は! と激昂して言い返してやりたい気持ちに駆られたが、こんな緊迫したときに不毛な口論をしている場合ではないと自分に言い聞かせる。
「……ああ。もうここは危険だ。とにかく車へ来い」湧き上がる怒りをグッと抑えて冷静さを取り戻しながら、城崎の後ろへ回り込んで来た瞬間、城崎が反射的に洸太を振り払った。
「ハッ、冗談じゃない。お前の保護なんて信用できるか」
「いいから来い!」
「あいつから来てくれるなら丁度いい。伝えなきゃならないことがあるんだ」と、踵を返して事故現場へと走って直行した。次の瞬間、事故現場へ続く前方の道路で何台もの車が煽られ、そのうちの一台がまた二人の方へ放物線を描いて飛んでくる。
ぶつかる直前に洸太が念力で咄嗟に車の軌道を変えたので助かった。そのどさくさに紛れて雅人がいる方へ向かおうと洸太から離れていく城崎だった。
「待て、城崎!」と念力で城崎の両足を拘束し、城崎はそのままバランスを崩して前に倒れてしまう。
「何するんだ。離せこの野郎!」
「悪いが、ここは大人しく従ってもらおう」と近づいて城崎を運び出そうとしたその時、「うっ!」と、洸太が突然、見えない衝撃波の塊を食らって後方へ突き飛ばされてトラックに激突する。
まるで、鉄製の丸太で勢いよく突かれたような衝撃だった。幸い開発部が造った頑丈なギアスーツのお蔭で身体に受けるダメージは殆ど無かったものの、見えない攻撃を受けた所為で、城崎にかけた拘束をうっかり解いてしまった。
両足が自由になった城崎は、好機と見て徐に立ち上がって雅人のいる方へ急ぐ。橋の反対側にいる雅人も、目の前に停まっている乗り捨てられた車を念力で押しのけながら進んでいく。城崎との距離は十数メートルまで迫って来ていた。洸太は瞬く間に立ち上がって城崎の後を追う。
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