第102話 作戦内容
「ああ、急を要する事態だからな。城崎には悪いが、少しでもこちらの都合に合わせてくれた方が良い。これで奴の不意を突いて先回り出来る」
「でも、何も事情を伝えずに勝手に振り回すのはマズいんじゃないのか?」
「後で話せばわかる筈だ。これから死ぬような目に遭うかも知れないってときに理屈なんていちいち考えてる暇があるか?
人間って言うのはな、自分の身に危険が迫ると頭ん中が真っ白になって、他のことなんて考えられる余裕もなくなって他人を蹴散らしてでも生き延びようとするだろ。自分の命が惜しくない人間なんていないんだよ。お前の話を聞く限り城崎はその最たる人間だ」
「ちょっ、茜の前だぞ」
「あっ、でも本当のことだろ」洸太に指摘されても尚、隣で座っていた茜に遠慮せずに核心に迫ることを冷たく言い放つ。そんな陽助のデリカシーに欠けた発言を控えるように注意しようとしたところ、茜が俯いたまま静かに口を開く。
「いいの。真は元々そういう人だし。それ分かった上で私たちは付き合ってるんだから」
「でも、だからってこんな危険な作戦に参加する必要なんて無いのに」
「コンビニでの借りも返したいし、真を助けられるなら構わない」と声を震わせながら言ったが、その瞳には強い意志が感じられる。そこまで言うのであれば何も言うことはないと飲み込むしか無く、それだけ彼氏である城崎を好いているという印象を受ける。
「コンビニって? 何かあったんですか?」と掛埜が食い気味に訊いた。
「洸太があたしを強盗犯から助けてくれたんです」
「いや、あの時は念力が暴発しただけで……とにかく助かって良かったよ。それじゃあ、打ち合わせ通りに尾行を?」と洸太が慌てて本題に戻した。
「ええ。執事にも話をつけてネオテックまで届けてくれることを了承してくださいました。今丁度城崎がチェックアウトしてそろそろ車に乗って出発した頃でしょう」
「ということは、僕たちは途中から後を付けて無事にネオテックに帰還出来れば僕たちの勝利ですね。でも折角装着したこのギアスーツも出番は来ないのはちょっと残念ですが」
「何事も備えあれば患いなしですよ。装着した感想はいかがですか?」
「初めて装着したからなのか、慣れないような感じがします」
「今までのトレーニングで着ていたものと形状も少し違いますからね。着た心地もしないでしょう。そのうち馴染むと思うので。開発部に無理を言って急ピッチに仕上げてもらいましたが、なんとか間に合って良かったです。それから、忘れないうちにこれを携帯してください」
と掛埜が二人に焼き鳥の串のように細長い、数本の銀色の針が入った透明の袋とそれを吹き込むための筒と洸太や陽助が装着しているのより薄いリストバンドを渡した。
「これは何ですか」
「麻酔針と吹き矢筒です。今回の任務は城崎真の保護ですが、日向雅人が出現した際に使用していただく武器になります。彼の超能力が日毎に強くなっているのなら、周りに念力をバリアーのように張って弾かれるでしょう。仮に張っていなかったとしても、硬質化した皮膚によって銃弾を弾き返されてしまいます」
「そのために俺たちであいつの体力と念力を消耗させて、弱ったところをこの麻酔針を吹き付けて拘束するというわけですね」
「はい。現時点で考えられる最も現実的且つ有効な対処法はこれしかありません」
「この麻酔針の威力はどれぐらいですか?」
「獰猛な熊を眠らせる程の量の麻酔が仕込まれてあります。くれぐれも取扱に注意してください。もし麻酔針でも効果が認められない場合は、最終手段としてそのリストバンドを手首に付けてください。それを付けられる前に逃げられるようなことになったら」
「その時は、私が何らかの形で攫われてしまえばいいんですよね?」と茜がその後の言葉を繋いで周りに確認するように聞く。
「ええ。市宮さんの手首に付けているリストバンドに内蔵されているGPSが起動し、それを手掛かりに拠点としているアジトを探り当てて日向を追い詰められるでしょう。とはいえ、このまま現れず思っていた以上に事が円滑に運ぶかもしれませんが、想定外の事態も当然起こり得えますので」
「たとえそうなったとしても僕たちネオトルーパーズはその都度また作戦を練り直して臨機応変に対応するだけです」と意気込んだ。
「そろそろ合流するようですね」と耳に付けていたトランシーバーに運転手からの連絡を受け、常に持っているタブレット端末で二台の位置情報を確認しながら全員に伝える。
そして洸太達の乗る車は予定通り、追跡していた城崎の車の後ろにぴったりくっついて走行してそのまま東京セントラルベイブリッジを渡ることになった。
あと少しで橋を渡り切ろうとしたところで、前方で何台もの車が列をなしているのが見えたので二台とも少しずつ徐行して止まる。
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