第101話 初任務

 自室に戻った洸太はベッドに腰を下ろして先程陽助が口にした言葉を頭の中で反芻する。


≪明日、俺は何が何でも城崎を保護してみせる≫


 具体的にどうするつもりなのだろうか。


 先日行われた作戦会議では、城崎が乗車する自家用車をただ尾行するだけの作戦で行うこととなった。その方がもし日向が襲撃してきたとしても矢庭に対処できるとのことらしい。


 尾行だと逆に怪しまれるのではないかと考え、だったら事情を説明して得心した上でこちらが迎えに行くべきだと提案するも、それでは誘拐になるからと却下された。自分たちは飽くまでも秘密組織で、存在が決して公になってはいけない。たとえ城崎でなくても、置かれている状況を打ち明けたところではい分かりましたと素直に応じるわけがないのが理由だった。


 尾行する方向で決まったものの、まだ不安要素が残っていた。それは、この作戦自体が日向たちに知られていないかどうかだった。


 東が極秘任務で日時と場所を把握してから襲撃してきたことを踏まえると、今回の作戦も何らかの方法で既に筒抜けになっている可能性も否定できない。


 でなければ東があそこまで深手を負って敗北する筈が無い。考えられるルートとして、外部からのハッキングもしくは内通者による情報漏洩。いずれにせよ、情報が漏れているのであれば今から対策しようとしても間に合わないだろう。ともすれば東の二の舞になるやもしれない。

 

 それについて陽助と話し合おうとしたところで、先程のような感情剥き出しの口喧嘩になってしまった。今から掛け合ってもまともに取り合ってはくれるとは思えない。


 ただでさえ東が病室で寝込んでいるため明日の作戦に参加できず、三人体制での共闘が幻に終わった。そんな痛手を負った上に、このタイミングで陽助と確執が生じたようでは連携が取れず最悪任務に失敗してしまうだろう。


 やはり陽助ともう一度話し合うべきだ。そう思い立って部屋を出ようとした時、部屋の壁に取り付いていた受話器が突然けたたましく鳴る。洸太は間を置かず受話器を手に取った。


<おい光山!>


「どうしたの?」


<城崎がもう日本に到着している>


「えっ、フライトは明日の筈じゃなかったのか?」洸太は陽助の開口一番に驚いた。


<四の五の言わずにすぐ支度しろ。詳しい話は車の中でする。急げ!>


 有無を言わさぬ言い様に洸太は戸惑いながら、届いた特製のギアスーツに直ちに着替えて部屋を出た。地下一階まで階段で急いで駆け上がり、車受けで停まっていたバンに飛び乗って出発する。車内には洸太の他、陽助と茜と見覚えのない白衣を着た若い女性が同乗していた。


「掛埜です。普段は綾川主任の助手をしております。主任に代わって今回の作戦に同行することになりました」と掛埜が先に挨拶をして右手を差し出し、洸太に握手を求める。洸太は差し出された手を握り返す。


彼女は助手と名乗っているが、容姿を見たところどうも年上の雰囲気は感じられず、寧ろ洸太や茜と同い年あるいは年下なのではないかとさえ思えてしまうほど幼く見えた。


 彼女は助手と名乗っているが、容姿を見たところどうも年上の雰囲気は感じられず、寧ろ洸太や茜と同い年あるいは年下なのではないかとさえ思えてしまうほど幼く見えた。


「あなたが掛埜さんですね。綾川さんから話は聞いております」


「そうですか。では早速、今回の作戦の詳細については私から説明させていただきます」


「分かりました。まず、城崎の帰国が今日の午前十一時に早まるということですが、到着の予定は明日の夜ではなかったのですか」今一番気になる疑問をぶつける。


「倉本社長の計らいにより、城崎さんが搭乗する便を早めてもらいました」


「城崎にはどうやって説得をしたのですか?」


「本来乗る飛行機がエンジントラブルを起こしたためと伝えたそうです。若干戸惑っていましたが何とか応じていただきました」


「なるほどですね。さすが倉本社長。相変わらず大胆なプランですね」


「いいえ、これらのアイデアは全て陽助さんによるものですよ」


「そうなの?」と驚いた様子で陽助に視線を移す。何やら不貞腐れた様子で腕を組んで座っていた。目が合った瞬間、陽助がそっぽを向く。


 まだ洸太とのやり取りを根に持っているのか、話しかけるなと言わんばかりの刺々しいオーラを纏っている。

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