第98話 襲撃者の考察
敵と見做された雅人から城崎真を守るため、陽助、東そして洸太の三人で警護に当たる予定になっていた。この日を迎えるにあたって、ここ二週間の過酷なトレーニングから逃げずに耐えてきたというのもあった。
城崎の帰国日をいよいよ明日に控え、それに向けて地下四階の多目的トレーニングルームで戦闘訓練を行っていた洸太と陽助の二人に、モニタールームでいつものように観察していた研究開発部主任の綾川から、東が何者かの襲撃を受けたという衝撃的な凶報を受ける。
二人はトレーニングを一旦中断して話を聞くことにした。綾川を先頭に三人は廊下を歩きながら会話していった。
「東の容体は?」
「意識不明の重体だそうだ。現在集中治療室で懸命な治療を受けている」
「あの東が日向に簡単にやられて重体なんて、想定外の事態ですね……」
昨日茜のいる部屋の前で東と話した後、東が受けた極秘任務は何となく危険な臭いがすると心のどこかで気になっていた部分があったのだが、まさかこれ程までに惨たらしい結果になるとは想像もしなかった。
「一体誰が東を?」
「分からない。襲われた現場は監視カメラが無かったそうだから追跡は難しいだろう」
「東だと事前に分かった上で襲撃して打ち負かすなんて……」
「それが可能な人物なんて限られてるだろ」
「日向もしくは岡部……」
「あるいはその二人の可能性もあり得るが、今回の事件は日向が犯人じゃないかって俺は睨んでる」
「どうして日向だって思うの?」
「この前の横浜の倉庫街での戦いであいつは俺と東に袋叩きにされた。それだけでも十分襲う理由になる」
「なるほど。日向は負けた腹いせに単独行動をとった東を奇襲したということか。日向がとうとうそんな狡猾な手段に出るなんて」
「それもそうだが、東が何の任務を任されてどうしてあいつ一人で引き受けたのかが気になる」それを聞いて洸太と綾川は陽助の着眼点の鋭さにドキッとして互いに目を見合わせる。
「それは東に聞いてみないと分からないだろうな。倉本社長や秘書の附田さんに聞いても適当にはぐらかされたし。だがこの件に関して社長はかなり取り乱していたようだったよ。それほどまでに重要な任務だったということだな」
「だったら、治療中の二人が意識を取り戻した時に聞けばいいのではないでしょうか。当事者である二人ならあの時何が起きたのか分かっている筈です」
「あの容態じゃあ当分目を覚まさないよ。たとえ意識が戻ったとしても頑なに口を割るとは思えない」
「そうですか。僕らが知ってはいけない『重要な任務』。そしてそれに適任なのが東だった……」と洸太が腕を組んで考える様子を見せる。
洸太と綾川は昨夜の東との三人での会話で社長の倉本が秘密裏に核爆弾の製造を行っていることを突き止めている。東が今回の任務を単独で向かったのも、それに関わるものだということを二人は分かっていた。
ここで変に陽助に感づかれれば、三人で倉本の陰謀を阻止しようとしていることがいずれ倉本の耳に届いてしまう。そうなれば三人にどんな処罰が待ち受けるか分からない。陽助に核心を突かれないように洸太と綾川は極力直接的な表現を避けるように話しを進める。
「まあ、考えれば考える程疑問が湧くだけだろうな。だが、それよりも大事なのは明日のの城崎の警護だ。きっと東ならそう言うだろう」
「確かにそうですね。しかし、明日の城崎の護衛に付く人間が一人減ったこの状況では……」と洸太が不安を吐露する。
「日向はそれも見越して単独行動を取った東を排除したんだろう。敵は少なければ少ないほど都合が良いからな。でも安心してくれ。そのために取って置きの装備を揃えたんだ」
そう言って綾川は研究開発部の研究室の前で止まった。洸太と陽助の二人は綾川との会話に気を取られていつの間にか目的地まで到着していることに気付かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます