第92話 一方通行の恋

「そうなんだ。まあ、中途半端な立場にいるあんたに一ミリも期待なんかしてないし。どうせ上っ面でしょ。あーあ、真も超能力者だったらなあ。どこかの誰かさんと違って、攫われた私をすぐに探し出して王子様みたいに颯爽と来てくれて、ここの人達や日向と岡部をあっという間に倒してさらっと助けてくれるんだろうなあ」と嫌味っぽく言う。その言葉を聞いて洸太はまた一つ疑問が浮かんだ。


「どうしてあんな奴を好きになったの?」


「私が小学校の時、真に助けられたことがあったから」すると茜は、自身が城崎のことを好きになった出来事を話し始めた。


「それだけ?」


「何よ。そうやって人を簡単に好きになるなんて馬鹿じゃないの、とでも言いたいわけ?」


「そうじゃない。あの時は確かにあいつのことが輝いて見えていたのかもしれない。でもね、人って変わるんだ。周りの環境や人間関係やひょんなことがきっかけでまるで人格が変わったかのように豹変してしまうことだってある。


今の城崎にはその時の面影は少しも残ってないのかもしれない。ひょっとして、茜を助けた時の出来事だってもう忘れてるかも……」と、城崎に対する正直な印象を吐露する。決して城崎を一方的に悪く言っているわけではなく、茜に考え直してもらいたいという直向きで純粋な想いから出た言葉だった。


「さっきから何言ってんの。別にあんたには関係ないでしょ?」洸太の思いとは裏腹に強気に反論した。


「そうだけど、このままあいつのことを盲信し続けてたらいつか本当に捨てられるよ」


「真はそんな人じゃないから。私の空虚な心を満たしてくれる大切な存在なの。だから真の言うことは絶対に信じる。真の言うことなら間違いない。犯罪だって喜んでやる。


確かに前々から決まってた私との公園でのデートをすっぽかしてアメリカに行ったのはさすがに信じられなかったけど、冷静に考えてみたら一方的過ぎたかなって。だからもっと好きになってもらえるように頑張るって決めたの」迷いが全く感じられない目で洸太を見ながらはっきりとした口調で言い張った。


 茜の主張を受けて洸太は、城崎の危険思想が彼女にも伝染してしまい、何をしでかすのか分からない危険な状態にあると理解した。恋と言うのはこんなにも人を変えてしまうものなのかとぞっとしてしまった。


「それと、真をあんなやつ呼ばわりしないでくれない? 心底ムカつくんだけど」


「これだけは覚えておいてほしい。自分を押し殺してまで貫く恋愛は長く続かない。続くわけがない。恋愛っていうのは一方通行じゃない。一方通行の道路で無理矢理逆走したら対向車と嫌でも衝突事故を起こすように、その先に待ち受けるのは破局という名の悲劇的な末路だ」それでも洸太は、どうか心に響いてほしいという気持ちを込めて続ける。


「うるさいな。もう放っといてよ」と切れ気味に撥ねつけると、そのままベッドに寝転んで枕に顔を埋める。


「……ごめん」と謝ってその後に何か言いかけたが、相当ストレスが溜まっているようなのでそれ以上発言するのはまずいと考え、ぐっと堪えて出かかった言葉を飲みこんだ。

 

 茜は小学校の時に城崎に助けられて好きになったと言っていた。その他にも、城崎はPTA会長の御子息であり生徒会長。そして茜は恵倫高校の理事長の御令嬢で学級委員長を務めている。


 そんな学校を代表する二人が、互いに惹かれ合うのもある意味自然なことかもしれない。そう考えれば合点がいく。

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