第89話 取引日時

「話というのは?」


「我が社を主導とする傘下企業が協同で開発した重要なエッグと言う装置をこっちに運んで来るということになった」

 

 エッグとは、東がずっと追っていた核爆弾に使用される核爆縮装置のことだった。


「そのエッグとは、一体何に使われる部品でしょうか」


「それは教えることが出来ない。機密事項だ」


「そうですか。どのような方法で運んでくるというのですか?」


「開発を担当していた久我という我が社の職員がそのエッグを小型トラックで明日運搬してくるらしい。それで安全確保のために君に同行してもらいたいのだ」

 

 エッグという名前で呼ばれるその装置は、核爆弾の心臓部である爆縮装置そのものであることに違いないと確信した。開発を担当していた職員の久我がその爆縮装置をここネオテックに運んで来るというのだった。完成品のお披露目会を開くつもりなのだろう。


「明日ですか。でっきり来週あたりかと見込んでいたのですが」


「状況が変わってしまってね。ただ警護に当たるだけだから明後日の城崎の護衛任務には支障はないと思うが」


「ならば私が行ってまいります。三人の中では私が適任かと思うので。具体的な日時や合流する場所は?」


「それも含めて彼と話すつもりだ。明日中に決まるだろうからそれまで待っててくれ」


「分かりました。日向や光山には何と説明すれば良いですか」


「機密事項に付き、内緒にしてほしい」


「了解しました」


 遂に明日、エッグをこの目で拝見できるのか。潜入してから半年経って漸く倉本の秘密に辿り着いた。これで俺の任務も無事に終わりを迎えられる。明日は永守と個別で水恐怖症を克服するためのトレーニングを予定していたが、またの機会にせざるを得ない。


 この件も含めて廃病院に潜む謎を掴んで白昼の元に曝せば倉本を社会的に抹殺できる。とにかく明日が楽しみだ。

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