第88話 重要参考人:市宮茜②
「東、もうその辺で良いだろう。知らないかどうかは彼女のスマホを調べればわかることだ。そうだろ、附田」
「はい。重要参考人につき、市宮さんから預かったスマホの中身を情報統括部に調べていただくように依頼しました。その結果、市宮さんがおっしゃっていたように、『今夜0時にこの地図に示した場所に来い』という内容が書かれたメールが匿名で送られていました」
「発信元の特定は?」
「残念ながら……もしかしたら使い捨てのメールアドレスだった可能性が高いと思われます」
「というわけだ。彼女は話せるだけのことを全部話した。これ以上詰問したところで何も聞き出せないだろう。別に真に受けるわけじゃないが、彼女が話したことは信用に足るだけどの価値があり、我々はそれを受け入れてこれから行動するしかない」
「しかし、まだ肝心なことは聞けておりません。この事件は恐らく、仲間である平沼が殺されたことによる日向への報復と睨んでいます。市宮茜にそのようなメールが送られたことから、城崎が仕組んだものと思えてならないのです。現に彼女は、俺が質問した際に口を噤んでいましたからね」と、鋭い目つきで一瞥しながら意見を述べる。
「私もこの殺害計画を提案したのも十中八九城崎だろうと考えている。だからこそ、早速マスコミ各社にいる私の知り合いに、この事件の報道を規制してもらえるように依頼するところだ」
「賛成です。もし日向がそれを知ってしまったらどんな行動に出るか分かりません。ともすれば我々三人が束になっても、いよいよ手が付けられなくなって取り返しのつかない事態になるでしょう。その間に殺害した犯人を速やかに見つけ出さなければ」
「とはいえ犯人候補はごまんといる。今から短期間で絞り込むのは無理だ。城崎真にどうにかコンタクトを取って市宮さん含め、他に誰に殺害を指示したのかを彼の口から聞き出そう。その方がこちらの手間が省ける」
「あの……」と、ここで洸太が沈黙を破るように会話に入った。
「どうした光山」
「いや、その……」
「何だ、言いたいことがあったら遠慮せずに言いなさい」倉本が促され、洸太は意を決して話し始める。
「もし、日向が母親のことに感づいたのならばと思いまして。実際に彼は先日、僕の自宅から数キロ離れた一軒家で起きた火災で、燃え盛る家の中に取り残されていた被害者家族を一人残らず無事に救出しました」
「そういえば、俺と陽助がその現場に駆け付けた際、一人の男によって既に救助活動が行われていた。まさかあの男の正体が日向雅人だったとは」
「日向は大切な人を守れるなら自分の命ぐらい投げ出す筈です。ましてや彼の精神的支柱である母親のこととなれば、尚更察知出来ないわけがないかと……」
「だが今回は何故か救助できなかった。これについてはどう説明する?」
「恐らく何らかの事情があって、残念ながら助けに行けなかったのかもしれません。しかし肉親である以上、最愛の母親の危機を感じ取れないわけがない。そしてこんな狡猾な犯行を考えつくのは城崎しかいない。だから何としてでも城崎を殺しに行く。そんなところでしょうか」
洸太の説明を聞いて、そうなった場合の状況が目に浮かんで、全員が言葉を飲んでゾッとした表情で下を向いたり、互いに顔を見合わせたりした。
洸太、東、陽助の三人がネオエンパシーによって遠くの事件や事故現場の位置と情景を思い浮かべられるなら、雅人も同じ能力を身に付けていたとしても不思議ではなかった。洸太は更に続ける。
「日向より先に城崎と接触した方が良いと考えます。日向はこれまで、城崎たちの束ねる不良グループの壊滅を目論んで、不良たちを見つけては撃退するといった自警団の活動を行ってきましたが、これ以上邪魔をされてたまるかと城崎に不意を突かれ返り討ちにされました。その意趣返しに平沼を手にかけ、そしてそれに対して城崎たちは、今度は仕返しに日向の母親を殺害するという凶行に出ました。
このまま血で血を洗う報復合戦が続けば、いずれ直接顔を合わせることになります。そうなったら城崎はひとたまりもありません。もし日向が同じネオエンパシーを開花していて、母親の死を感知していたのであれば、叩きのめしてでも城崎が指令を送った者達の名前と場所を聞き出して、岡部とともに殺戮に向かうでしょう」
洸太が凄惨な未来を想像しながら、若干早口になりながら説明していった。岡部と聞いて茜の身体がビクンとなったのを洸太は見逃さなかった。
「要するに、真っ先に狙うとすれば城崎しか考えられないということだな。帰国日はもう二日後に迫ってきている。とにかく先ずは城崎の保護を最優先にしよう。それまでに何としてでも準備を終らせるんだ。いいな?」と言って、一人ひとりの顔を確認するように周りを見渡す。全員納得しており、異存はないことを確認した。
「では、他に無ければこれで会議は終了だ。私は東と個別で話があるのでここに残る。それ以外の者はそれぞれの仕事に戻って良い」と言うと、附田と陽助は椅子から立ち上がってドアを開けて出ていった。
「それと光山君、君が市宮さんを部屋まで連れて行きなさい」会議室を出ようとした洸太を呼び止めて言った。
「えっ……分かりました」と意外そうに返事して、茜と一緒に会議室を後にする。
洸太達がエレベーターに乗っていったのを確認すると、東はドアを閉めて椅子に座りなおした。
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