第82話 東の目的②

「そうだ。もし俺があの男の立場だったとしても同じような考えに至る。何しろ核爆発実験はこれまでの研究の集大成とも言える実験になるからな。だからこそ、何としてでもあの男の暴挙を止めなければならない。それが本部から派遣された俺の使命であり、戦う理由でもあるからだ」


「どうして君はそこまで必死になれるの?」と尋ねると、東が一息ついて一層真剣な表情をしてみせた。


「十六年前の中東で発生した核爆発事故を覚えているか?」


「確か核融合を積んだ航空機が機器やエンジンにトラブルが生じて航空不能になって確か地中海東部の海域に墜落したっていうあの事故のこと?」


「あの爆発事故は、機器やエンジンに異常があったなどというつまらない原因で起きたわけじゃない。俺の責任で発生した事故だったんだ」そうして東は静かに当時の出来事をつぶさに語り始め、洸太は終始信じられないといった様子で聞いていた。


「ま、まさか……十六年前の核爆発事故が、そいつによって引き起こされたものだったなんて」


「今回も薄々ではあるが、背後にもっと凶悪で強力な黒幕の存在を感じてならないんだ。恐らくあの時の墜落事故を引き起こした犯人かも知れない。そうなればまたあの悲劇が繰り返されることになる。もう二度と、あんな恐ろしい悲劇が起きて大勢の人々が犠牲になるのは御免だ」


「どうするつもりなの?」


「倉本がこれまで隠し続けてきた俺達強化人間の真実を審らかにし、そして近いうちにこっちに運ばれてくる核爆弾を秘密裏に強奪する」


「だったら一刻も早く社長の計画を止めないと。そうだ、陽助にもこのことを伝えて――」


「駄目だ」


「どうして? 陽助も被検体の一人なんでしょ。それに、僕たち三人で協力すれば核爆発実験なんて止められる筈だよ」


「そんな単純な話じゃないんだ。陽助は倉本の息子で特別な存在で贔屓されている。陽助もそんな父親にべったりだ。加えて、いくら俺達と同じような強化された人間になったとはいえ、自分の息子をそんなむごい実験にかけるとはどうしても思えない」


「じゃあ何で僕にわざわざこんな重い話をしたんだよ。協力してほしかったからでしょ?」


「いや、協力とは少し違う。光山、俺や綾川に万が一のことがあったらお前にはあとのことを引き継いでほしいんだ」


「引き継いでほしいって……具体的に何をすればいいの?」


「そこにあるパソコンにあるファイルをUSBに移してすぐにネットやマスコミに公表しろ。そのファイルには、倉本がこれまで隠し続けてきた実験やこのネオテック日本支部に関する全ての調査報告書が添付されてある。そうすれば、たとえ俺の独自捜査が失敗して俺と綾川との関係がバレたとしても、どの道これで倉本は終わりだ」


「綾川さんはそれでいいんですか?」


「東に協力しようと決めたときから覚悟は出来ているつもりだ。僕の親父は生前、倉本と一緒に奥多摩市にある診療所で働いていた。とても仕事熱心な人だった。それがある時親父が不可解な事故死を遂げ、暫くして倉本はここネオテック日本支部の社長になっている。


僕にはどうしても、倉本が親父の死に関与しているとしか思えないんだ。あの時何があったのか、どんな手を使ってでも倉本の口からその真相を聞き出したい。それが僕の戦う理由だ」と真顔で決意を表明した。


 それを受けて洸太は、二人は従順なふりをしてじっと飼い主である倉本の首を掻き切る機会を伺っていたのだと理解する。


「でも、東がさっき言ってた裏で糸を引いてる恐ろしい黒幕が何も手出ししてこないとも限らない。やっぱり僕も入れてもらった方が良いと思うけど……」と食い下がる。


「心配するな。元々俺一人で調査をするつもりだったし、黒幕とも一度やり合ったことがある。それに、お前の能力指数における覚醒率は本気を出せば二桁まで上昇するが、総体的にまだまだレベルⅡには達していない。何より今日のあのプールでの様子だととてもじゃないけど心許ないし」

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