第81話 東の目的①
その日の深夜、東は洸太の部屋へ訪れ、部屋のドアを何回かノックした後部屋着姿の洸太がドアを開けて出てきた。
「どうしたの?」
「体調はどうだ」
「エキストリミスを飲んで一休みしたらなんとか元に戻ったけど」
「そうか。ここで話するのもなんだから場所を移すぞ。ツナギに着替えろ」
「えっ、今から?」
「ああ、早くしろ」と、困惑する洸太を他所に半ば強制的に連れて行くこととなった。
時刻は零時を過ぎている真夜中、東と洸太は暗い中、保安灯の明かりを頼りに同じ階のいくつか角を曲がったところにある廊下を歩き、その壁の前で止まる。東は慣れた様子で壁の隠し扉を開けて更にその中にあるドアも監視カメラの顔認証でロックを解除されて入ることができた。部屋の中では綾川が相変わらずパソコンで何かの作業をしている。
「やあ光山君。調子はどうだい?」と一旦作業を止めて綾川が訊いてきた。
「暫く寝ていたお蔭でこの通り元に戻りました。あの、ここって――」
「しっ、まだ何も喋るな」と東が咄嗟に口元に人差し指を置いて洸太を制した。洸太は戸惑ったが、大人しく黙ることにした。
すると、綾川が手に持っているリモコンを向けてボタンを押すと、リストバンド自動で外れて床に落ちてしまった。それを見た洸太は衝撃を受ける。
今までリストバンドを自力で外そうとしたら必ず電流が流れてくるので、もうこのままずっとネオテックの傭兵になるしかないと諦めていたので、それがリモコン一つで外せるとは露ほどにも思わなかった。
「よし、これでリストバンドの盗聴器をオフにした」
「えっ、盗聴器?」
「そうだ。お前と俺と陽助が装着しているリストバンドには小型の盗聴器が内蔵されているんだ」
「誰が何のためにそんなことを?」
「倉本が俺達適合者たちのことを警戒して、少しでも反骨精神を見せればすぐにでも摘発できるようにするため。まあ、それは建前であって本当の目的は俺への牽制だ」
「どういうこと?」
「俺の目的は、ネオテック日本支部の社長である倉本の陰謀を阻止するために隊員たちの教育係として潜入捜査を行っている。そしてここにいる綾川は俺の唯一の協力者だ」
「その、倉本が水面下で進めている陰謀って何?」と恐る恐る聞く。
「俺達ヌミノーゼ遺伝子を有する適合者たちを被検体とする核爆発実験だ」
「核爆発実験!? それってあの……?」
「ああ。第二次世界大戦末期に広島や長崎に投下され、数万人の犠牲者を出したあれだ。それから時代も技術もかなり進んでいるから、今回使用される爆弾は当時のものを遥かに凌駕する爆発力を持っていると読んでいる」
「社長が、そんな恐ろしいことを企てていたなんて……でも、今までその実験を臭わせるような素振りは無かった筈」
「そりゃそうだよ。知られたら計画が台無しになってしまうからな。だがあの男は周到に準備を進めてきたんだ。例えば、数週間前に数名の核物理学者を日本に招待するつもりだったことや、俺達が訓練のために使った多目的トレーニングルームや地下五階のプールでは、部屋の壁全体に放射性物質が施されていたこと。因みにこれらは全て綾川が調査して分かったことだが」
「数名の物理学者については秘書の電話している時の会話を偶然盗み聞きして知った情報だ。トレーニングルームの特殊な仕組みについては、俺達職員には防護服が配布されたけど何故か東達には用意されていない。そこに疑問を覚えて独自に調べたら、人体に有害な量の放射性物質が壁全体に沁み込ませてあることが分かった」
「つまり、倉本社長の魂胆としてヌミノーゼ遺伝子によって特殊な体質に変化した僕たちの身体がそれに耐えられるかどうか知りたい。だけど、大っぴらな実験は出来ない代わりに、予め放射線の溜まっている各トレーニングルームで訓練させることで常にそれを浴びた状態にしておいて、それで身体に異常をきたすかどうかを調べる。そして時間をかけて観察した結果、体のどこにも異常は見られなかった……」
「俺たちの身体は放射線を受けても平気な身体へと進化したということだ。となれば、核爆発にも耐えられる筈だという仮説が成り立つ」と東が洸太の言葉を引き継いでまとめた。
「じゃあ初めから全て倉本社長が仕組んでいたことで、僕たちはモルモットってこと……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます