第74話 トレーニング開始

 ネオトルーパーズへの入隊を決意してから待ったなしに訓練を始めることとなった。その内容はさぞ厳しいものなのだろうと覚悟していたが、いざ始めてみたところ想像を絶するほどの過酷さだったことは言うまでも無い。

 

 訓練の内容は、雅人たちとの戦闘を見据えた肉体改造及び基礎体力の向上、戦闘技術の習得、超能力の制御と向上を目的とした途轍もなくハードなメニューとなっている。その上、城崎が帰国するまでの僅かな期間でしっかりと身に付けておかなければならなかったため、東達の指導に一層熱が入る。

 

 基礎体力と筋力を付けるためのトレーニングでは、先ず初めに準備運動としてラジオ体操やストレッチをしてから腹筋やクランプといった体幹を鍛えるメニューや腕立て伏せ、懸垂、スクワットの他、百キロ障害物マラソン、二十四時間耐久トライアスロン、ロッククライミングといった様々なスポーツ競技を行った。

 

 その際に酸素濃度の薄い部屋で身体に重りを付けた状態で完走を目指すという、ネオテック独自のアレンジを加えることでより負荷がかかってかなりの効果が期待できる筈だったが、普段から運動なんてろくにしていなかったため案の定体力が持続せず、酸欠になって途中で脱落してしまうことが多かった。

 

 戦闘訓練では柔道や空手、キックボクシングといった格闘技の他、自衛隊や警察で取り入れられている近接格闘術や体術、暗殺術の手解きを受けた。


 いかんせん覚えるべき動作や技を繰り出すタイミングが多く、指導してくれる東を悩ませてしまい、結局全部覚えきれないまま実戦訓練に臨んでは、毎回東や陽助のパンチと蹴りを食らってそのまま再起不能になるという散々な結果で終わる。

 

 超能力の制御訓練では、物を浮かして操作したり自分の身体を浮かして飛ぶ練習を行ったりした。先ずは東が手本としてやって見せたところ、手を使わず念じただけでバラバラだった立体パズルの色を驚くべき速さで全て揃えてみせる。

 

 その後洸太も見様見真似でやってみるも、念力を上手くコントロール出来ずに熱で温められたポップコーンの種が破裂するように、立体パズルがパンッと音を立てながら構成するパーツが四方八方に散らばってしまう。


 続いて浮遊訓練では、身体を浮かして鳥のように縦横無尽に飛んでは空中停滞させる動作をまるで朝飯前のように披露してみせるも、いざ洸太がやってみると壁や床に勢いよく叩きつけられた挙句血反吐を吐くという無様な姿を晒す始末だった。

 

 結果に一喜一憂している余裕など無く、これらの訓練の他にも上下左右からランダムに高速で飛んで来る硬いボールを目隠しした状態で躱すトレーニングや、酷暑サウナや冷凍室に一日中入り浸って耐え抜くなどの極限環境適応訓練なども立て続けに行った。朝早く起きてから夜遅くまでトレーニングをするという訓練漬けで身体と心が休まらず、筋肉痛と疲労に苦しむ辛い毎日だった。

 

 そして訓練三日目。午前の訓練が終わって東と陽助と三人で一緒に昼休憩に入った。


「おい、エキストリミス服用したか?」食堂で昼ご飯を食べながら向かい側の席に座っていた東が唐突に訊いてきた。


「もうしたよ。忘れるわけないよ。それが無いと超能力を使う度に血を吐いてしまうから」

 

 洸太は超能力を使う度に発作を起こして吐血してしまうため、その際はエキストリミスという錠剤のサプリを処方されている。


 聞けばエキストリミスはネオテックとアストラル製薬が共同で開発したサプリメントで、それを服用して超常性精神障害――別名サイコブレイクで引き起こされる発作を抑えてくれる作用があるという。

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