第73話 柾

 秘書の附田が運転している車の後部座席に座って車の窓から右から左へ通り過ぎていく東京の街を眺めていると、突然自分のスマホに非通知の着信が来たので間を置かず電話に出た。


<お疲れ様です、倉本さん>


 電話口から爽やかな声色が聞こえてきた。


「連絡を待っていたぞ、柾」


<色々とバタバタしてしまい、遅くなりました。状況はどうなっていますか?>


「遂に四人目の少年が現れたぞ」


<おお、漸くおでましですか。これで役者が揃いましたね。それで、捕らえたのですか?>


「いいや。彼は何故か日向雅人と結託して行動を共にしているそうだ。どうやら共犯のようでしかも超能力を覚醒させているらしい」


<それは偉いことになりましたね。我々の計画に支障を来さなければ良いのですが>


「無論そんなことはさせないさ。それだけは断言する」


<倉本さんがそこまで言うのなら心配ご無用ですね。肝心の装置の方は?>


「既に完成してある。数日内にうちに運ばれてくる予定だ」


<そうですか。日程が決まり次第教えて頂けますか。それに合わせてこちらでも準備を進めますので>


「島の選定の方はどうなってる」


<南太平洋に浮かぶ小さな無人島を一つ、数十億円という値段でで購入しました。これから整備を始めていきます>


「そうか。他に何か手伝えることはあるかい?」


<お気持ちだけで充分ですよ。実験当日には僕も立ち会えるようにしますのでご安心ください>


「ああ。我々の計画に近づくまで、あと少しだな」


<待ち遠しいですねぇ。これで倉本さんの復讐も成し遂げられます>


「その為だけに今まで生きてきたようなものだ。あいつだけはこの手で直接殺してやりたいと心が無性に訴えかけてくるのだよ。やはり仇は自分の手で殺してこそ、復讐は初めて完遂されるのだな」


<その通りです。今のところ計画は滞りなく順調に進んでいますがトラブルが起きないとも限りません。一抹の不安が残っていては折角の復讐も失敗に終わってしまいますからね。そうならないためには――>


「その時は私が万が一のことを考慮して止めを刺せばいいさ。念には念を入れる。その為に今日まで秘密の特訓もしてきたしな。後は時を待つのみ」


<楽しみですね。では、僕もそろそろ失礼させていただきます。また連絡しますので>


 そう言って柾は電話を切り、倉本は自分のスマホを上着の内ポケットに仕舞った。その間も倉本は車の窓の外に広がる街並みを意味ありげに見ていたかと思うと、自分の復讐が上手くいったイメージが浮かんだのか、表情が徐々に綻びていきやがて勝利を確信した笑みに変わっていくのだった。

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