第72話 ネオトルーパーズ入隊②

「フン、面白い。いいだろう。そこまで言うなら入隊を認めてやる」その決意表明とも言える言葉を聞いた倉本は一呼吸置いてそう話した。


「ありがとうございます」


「社長、本気ですか」


「彼は幼馴染の友人を助けたいと言っている。その覚悟がどこまで保つのか見てみたい。他に異存のある者は?」と一人ひとりの顔を見回したが、倉本が下した決断に誰も意を唱えなかった。


「では、早速明日から光山洸太を改めてネオトルーパーズとして歓迎して訓練プログラムに参加してもらう。そして、城崎真の保護と日向雅人と岡部浩紀の居場所の特定及び捕獲を目的とした作戦要綱を立案し、城崎真の帰国日までに内容を詰めていくこと。それでいいかな?」ともう一度一人ひとりの顔を確認するように見回した。命令とも言えるその言葉に全員納得して頷いた。そして倉本は更に続ける。


「今回のターゲットはご存知の通り日向雅人と岡部浩紀だ。これは由々しき事態であり、次に対峙する時はより危険な存在になっているのかもしれない。そのため、この二週間というのは絶対に無駄に出来ない貴重な期間となる。


各々の役割と職務に全力を注ぎ、くれぐれも油断しないように気を付けてほしい。では、以上で会議を終了する」と激励の言葉を言い残して席から立ち上がり、背広を正して秘書の附田とともに会議室を出ていった。


 綾川は部屋の片づけがあるからと洸太、東、陽助の三人に先に行ってくれと促す。会議室を出た三人は東を先頭にエレベーターホールに向かって歩いていった。


「おいおい、どうした。あんなに嫌がっていたお前がああやって声高らかに啖呵切るなんて。一体どういう風の吹き回しだよ」と解散してからウズウズしていた陽助が、目がワクワクする少年の目のような目をしながら食い気味に訊いた。その様子から、ずっとそのことが気になっており、聞きたくて仕方がなかったようだ。


「勿論今でも嫌さ。でも、僕がやらないとあいつ死ぬかもしれないから」洸太が振り帰らずに答える。


「理由はそれだけか」と東が素っ気なく訊ねた。


「責任を感じたんだ。僕はあいつの協力を突っ撥ねてしまったから暴走してる。あいつがそうなってしまったのも半分僕の所為でもある。それなのにあいつが殺されるところを指咥えて見ているだけなんて、そんなの勝手すぎるし無責任にも程があるなって。だから僕は、ネオトルーパーズに志願してあいつと面と向かって話し合いたいって決めたのさ」


「確かに、自分の友人に手を掛けるっていうのは心が痛むよな。俺もお前の立場だったら躊躇してしまうだろう。でもああやって復讐の鬼になっちまった奴っていうのはめちゃくちゃ頑固でそう簡単に折れないタイプだからなあ。捕まえるってなるとかなり骨が折れるぞ。それでもやるのか」


「ああ。もう決めたことだ」


「フン。だったら最初からそう決断すれば良かったんだ。全く、遅いんだよいつまでもウジウジしやがって」と洸太の優柔不断さに腹を立てている東に対して「ごめん」と申し訳なさそうに謝る。


「まあいいじゃねえか。こうして光山も結果的に入隊することになったんだからさ。なっ」と陽助がすかさず擁護する。


「ああ。今更撤回なんてあり得ない」と念を押すようにきっぱり言い切った。


「だから許してやれよ。それに三対二で俺達に分があるし、こいつも加わったら心強いし。案外楽勝かもな」


「フン。決して油断するなとさっき社長に釘を刺されたばかりだぞ。もう忘れたのか」


「だからって根を詰めるのも却って良くないだろ。もうちょっと気楽にやってもいいんじゃねえのか」


「とにかく、我々に残された時間は二週間しかない。直ちにトレーニングウェアに着替えて訓練開始だ。やると胸張って宣言したからには手厳しくいくぞ。もう客人扱いはしないからな」


「覚悟の上だ」と毅然とした口調で返す。丁度下りのエレベーターが開き、それに乗った三人は地下の階へ降りていった。


 雅人が残忍な復讐の鬼と化してしまったのは、自分の所為であると思っている。一緒に城崎たちに仕返ししようという頼みを拒んだ挙句、雅人を騙して集団暴行を受けるように仕向けた。


 洸太は城崎たちにいざ立ち向かったときの報復と自分の母親に恐れを成してしまい、幼馴染である浩紀をいじめから救いたいという雅人の純粋な善意を踏み躙って自分の保身を選んだ。


 小学校の時に誤って落ちて溺れかけた激流の川から助けてくれた恩を仇で返してしまった。やっていることはある意味城崎と同じであり最低な行為だと自分を責める。その上、雅人を突き放してしまったことで彼が暴走する要因の一つになったということにも負い目を感じている。


 もう見て見ぬふりをするのは御免だ。ここで自分を変えなければ、一生殻に閉じ籠ったまま逃げ続けるだけだろう。そんなみっともない人生は送りたくない。自分で蒔いたしまった種はちゃんと自分で刈り取らなければならない。

 

 社長の倉本から特別に許可を得て晴れてネオトルーパーズへの入隊が決定したが、まだ正式ではない。これから始まる二週間のトレーニングで本当に東と陽助とともに前線に出すべきかどうかを見極められるため、人一倍励まなければならない。


 そしてその内容というのが、想像を絶するほど壮絶なものであるということを洸太はまだ知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る