第71話 ネオトルーパーズ入隊①

「これは、一体どういう……」誰もがこの映像を見て得心している東や陽助とは違い、洸太だけが内容の意味を理解できず、明らかに困惑していた。


「ご覧いただいた通りだ」


「これでは日向のことはおろか、平沼の情報すら伝えられていないじゃないですか。この映像だけだと平沼のご遺族が納得できる筈がありません!」と机を叩いて立ち上がり、壁に指差ししながら声を荒げて反論する。


「平沼誠一のご遺族には、激しい雨風により倒壊した倉庫の下敷きになったことによる事故死と伝え、渋々受け入れていただきましたよ。それから、日向雅人の襲撃から生き延びた者達にも事件の夜のことは絶対に口外しないように箝口令を敷いてあります」と秘書の附田が淡々と答えた。


「そんな……じゃあ、平沼のご遺族は真相を知らないまま死を悼むということですか?」


「それが最も賢い選択だ。例え謎の死を解明しようとする者が現れたとしても、決して真実に辿り着くことはない。それに、人の噂も七十五日って言うだろう。いずれほとぼりも冷めるさ」


「それも社長の指示で言ったことですか」と倉本の目を見て訊いた。


「そうだ。こういった事例というのは、真正直に真実を伝えても決して理解を示してはくれない。心苦しいが、真相を伏せて多少脚色を加えて経緯を伝えた方が受け入れ易い。嘘も方便だ」


「何が嘘も方便ですか。騙していることに変わりはありませんよ」


「何言ってるんだ。超能力者たちが倉庫で戦闘を繰り広げ、その闘いに巻き込まれてしまいました、という突飛な説明で一体誰が納得する。俺たちは飽くまで非公式の戦闘部隊だ。それもまだ創設されたばかりのな。


だから表立って行動することは許されていない。ましてや自分の正体を世間に曝すなど以ての外だ。口答えも甚だしいぞ」となかなか引き下がらない洸太に痺れを切らした東が座ったまま諭す。


「まあ俺たちの仕事は夜間での活動がメインだからな。そこを理解してもらわないと困るぜ」と陽助が東の言葉を言い換えてすかさず補足する。洸太は暫く周りを見渡し、自分以外に味方がおらず孤立していることに気付いて少し焦った。


「ニュースでも一切報道されない。平沼の遺族にも真実を隠すとなれば、誰にも知らないうちに水面下で日向を殺害するしかないということですか」洸太は一呼吸置いてから倉本を睨んで今度は確認するように訊く。


「殺害は飽くまで最終手段だ。無論捕獲を前提とした作戦を立案するが、いずれにせよ知り合いの人と敵対するのは心が痛むだろう。心情を察するよ。


だが残念なことに、彼はもう人としての一線を越えてしまった。実際に君たちはその目で見た筈だ。彼の本性を」そう言われた洸太は、昨夜の倉庫での戦いを回想する。雅人の暗い憎悪に満ちた目が、今も脳裏に強烈に焼き付いていた。


「彼は自宅に押し入り、母親を病院送りにした平沼達に復讐するべく倉庫に出向いてそこで待ち受けていた平沼たちを超能力で倒して首謀者である平沼誠一を絞殺した。彼は取り返しのつかないことをしてしまい、落ちるところまで落ちた。


これ以上奴を野放しにすれば手に負えない脅威となるだろう。だから日向を殺すという選択は賢明であると言える。いや、この事態を速やかに収束させるには最早それしかない」


「例えそうだとしても、殺害を最後の手段として考えるのは承服出来ません」

 

 命あるもの全て平等だ。その概念には差別や区別が決してあってはならない。そして、どんなに万人にとってそれが最善の選択だったとしても、人の命より価値のあるものなどありはしないという信念を強く持っていた。


「光山。お前何様のつもりだ。どうやらネオトルーパーズの隊員としての自覚が足りていないようだな。言った筈だぞ、自分の立場を弁えろと」と東が洸太の胸倉を掴んで声を荒げて非難する。


「僕はネオトルーパーズである前に一人の人間だ。それに、日向は単なる知り合いではない。幼馴染であり友人だ!」


「ほう。ならば君に、復讐に取り憑かれた彼を救えるとでも?」と倉本が前のめりになってニヤけて尋ねる。


「ああ、救ってみせる!」と東の腕を振り解いて感情的になってきっぱり断言する。


「ハハハハハハ。念力のコントロールもろくに出来ない、身体能力はおろか強風が吹けば飛んでしまいそうなその脆い身体で一体何が出来るというのだ」


「僕が、ここでトレーニングを積んで、ネオトルーパーズとしてこの作戦に参加する! そんでもって、日向を救います!」と洸太が今思いついた方法を声高らかに宣言した。その信じられない発言に誰もが驚いて目が点になる。


「お前、正気か!」信じがたい様子の東だったが、洸太は何も答えず一途な眼差しを向けるだけだった。その時の洸太の目には、固い意志と覚悟が宿っていることが分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る