第70話 事件の振り返り③

「それより問題なのは岡部浩紀だ。何故彼が超能力に目覚めたのか。そして一体どうやって数万トン以上もの重量を誇るタンカーを浮かすことが出来たのか」


「……確かにとんでもないパワーと精度ですね。エネルギー効率だけで言えば私と陽助でさえ到底足下に及びません」と冷静さを取り戻した東が顔を上げて答える。


「報告によれば彼は確か消息を絶っていて行方が分かっていなかったそうじゃないか」


「はい。我々もそういう認識で動いていたので彼の出現は予想出来ませんでした。なのでまさかこうも早く姿を現すとは全く以て寝耳に水で……」


 あの現場にいた誰よりも遥かに凌駕する力を持った浩紀が突如乱入してきたことで、それまで倉庫街だけで限定されていた戦いの被害は東京湾沿いを中心に一気に広範囲に及んだ。もしあのとき同等の力を持ったあの白衣の男が現れなければ、被害はもっと甚大なものになっていたのかもしれないと洸太は思い返す。


「今の君たちではあのぐらいのタンカーを浮かすことは出来ないのか?」


「残念ながら、クルーザーを浮かすのが精一杯で……」


「まあ無理もない。まだ超能力をコントロール出来るようになったのもつい最近のことだからな。ということは、岡部は恐らく失踪中あるいはそれより前から超能力に目覚めていたのかもしれない。どういうきっかけといつ頃超能力を手に入れたのかは謎だが、何より気になるのが日向雅人と協力関係にあるということだ」


「あの二人が知らぬ間に繋がっているとなればかなり面倒ですね。日向の念力とパワーはまだ私と陽助より劣りますが、格上である岡部に師事すれば今後更に強力となり危険な存在になることは間違いありません。


我々を上回るほどの実力を持つようになれば、いよいよ対処も難しくなるでしょう。ですが、能力的に勝っていたとしても制御出来なければ暴走と変わりません」


「隙を突けば倒せるということだな」


「はい、そのためにはこちらから先に攻撃を仕掛けるしかありません。例えば、奴らの居場所を特定して急襲する。しかし、今回は発信機を取り付けられなかったので現実的な方法としては、次に狙うターゲットが誰なのかを知り、先にこちらで保護して奴らを迎撃することです」


「となると次に襲うとすれば、楠本樹か城崎真のどちらか。あるいは両方か。二人の現在地は?」と秘書の附田に聞くと、附田がすぐさま手帳のページを捲って言った。


「城崎真は現在アメリカのカリフォルニアにて旅行中。それから楠本樹につきましては自宅にいると伺っておりますが、昨夜から行方不明になっているとのことです」


「行方不明だと?」と倉本が聞き返し、全員の視線が一斉に附田に集まる。


「はい。出かけたきり夜になっても帰って来ない息子のことを不審に思った母親が警察に捜索願を出したようです」


「次はいよいよ自分の番だと恐れて単身逃げたか、もしくは攫われたか……」と倉本が腕を組んで深いため息を吐く。


「早急に目撃情報と防犯カメラの映像を頼りに徹底的に探し出すべきかと思われます」


「ああ。それから城崎の帰国日は?」


「調べたところ、三月十六日の予定です」


「今から丁度二週間後か」


「日向が直接アメリカに行くという可能性はありますか?」


「それはあり得ない。空路を選ばず、身体を浮かして移動したとしてもアメリカ本国に辿り着くまで二週間以上かかるだろう。その間に国際指名手配されて万が一無事にアメリカに到着できたとしても、配備されたアメリカの警察もしくは軍との戦闘は避けられない。


通常火器だけでは足止めにすらならないので恐らく大規模な戦闘になるだろう。私が日向だったらそんな回りくどい手は使わず、帰国したところを狙って襲撃するが」


「では、帰国日に備えて対策を取った方が良いということですね」


「ああ。必要に応じて殺害しても構わない」


「分かりました」


「さ、殺害!?」と洸太は倉本が平然と言った言葉に過剰なほど反応してつい立ち上がって聞き返した。


「どうした、そんなに驚くことか?」


「それってどういう意味ですか」


「言葉通りだ。基本は捕獲を前提として作戦を立てて行動するが、やむを得ない状況になった際は殺しても良いということだ。何か問題でもあるのか?」


「それはいささかやり過ぎではないかと思いまして」と、今思ったことをそのまま言葉にして打ち明ける。


「因みに、テレビではこの事件をどのように報道しているのか知っているか?」


「い、いえ……」そう答える洸太に倉本が一つ隣に座っていた綾川を向いてテレビで流れたニュースの映像を見せるように促すと、綾川はパソコンを操作して皆の視線が壁に集まる。

 

 プロジェクターが壁に映し出したその映像にはに昨夜の倉庫での様子が映っていた。それには倉庫が原形を留めておらず無残に破壊されており、何隻もの海上保安庁の船が海に横たわって浮いているタンカーをぐるりと囲むようにしてまだ救助されていない遭難者がいるかどうか捜索している様子が映っていた。


 なお、この二つの現象はいずれも急発達した爆弾低気圧の激しい風雨とそれによる海水の氾濫の影響で引き起こされたものと報道官がコメントしている。映像はそこで終わり、倉本は三人に向きなおって「だそうだ」と締めくくる。

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