第69話 事件の振り返り②
「まあまあ、そこまできつく非難することは無いだろう。光山君のお蔭でこうして死なずに済んだんだ。大目に見てあげたらどうだ」と倉本が落ち着いた口調で東を宥める。
「しかし……」と不服そうな表情を浮かべたが、これ以上は時間の無駄だと分かって出かかった言葉を呑み込んだ。
「今回の事件が起きた経緯は?」と倉本が半ば強引に本題に移す。
「はい。平沼とその半グレの仲間達の拠点とする横浜市中区の山野埠頭の倉庫街にある三番倉庫に容疑者の日向雅人が襲撃し、全員薙ぎ倒した末にリーダーの平沼誠一を殺害したというのがこの事件の大まかな流れとなります」と秘書の附田が自身の手帳を見ながら説明した。
「なるほど。それで、日向が平沼を殺害した動機は?」
「母親を病院送りにされたことへの報復として平沼誠一の殺害に至ったということでしょう。警察の調べによれば、平沼は日向雅人の自宅に上がって日向の母親を問い詰めたところ、母親が心臓発作を起こして倒れてしまいたまらず家を出ていった。その様子がカメラに映っていた他、出ていく際に防犯カメラに向かって平沼が日向雅人を挑発するようなメッセージも残していったそうです」
「それを見て挑発に乗った日向が怒りに身を任せて犯行に及んだ。その後に君たちと会敵して逃走を図った彼を捕獲しようと戦闘に発展したというわけか」と倉本が事件の内容を要約して東に視線を移すと、東は何も言わずこくりと頷く。倉本が一呼吸置いて話を続ける。
「そういえば、この事件が起きる前の日の午前に、日向雅人が光山君の通う学校を超能力で半壊させた事件で君と光山君で平沼に話を伺ったことがあるだろう。その時彼に何か変わった様子は無かったのか?」
「彼と対面したときは、少々キレ気味で鬱陶しそうな態度を取っていました。恐らく、我々は学校が倒壊したという報せを聞いた際に次は自分が狙われると危機感を覚えたのでしょう。
だから先手を打って日向の家に乗り込んで日向を襲撃するつもりが、その時はたまたま母親しかいなかったため防犯カメラにメッセージを残し、場所を改めて日向を迎え撃つことにした」と東が時々上を見上げて当時の記憶を想起しながら話した。
「こういうことは考えられないか。君たちが平沼や楠本に話を聞いた上で日向を仕留めるように暗に嗾けた。そうすれば平沼たちが何かことを起こせば必ず日向に辿り着く筈だ、と。つまりそういうことだろう?」と人の心の中身を透視して当てるメンタリストのように、倉本が東の心理を読み解くように問いかける。
「いえ、決してそんなつもりは……」
「もし、挑発的な言葉を避けて慎重に話をする、あるいは平沼や楠本たちの行動を徹底的にマークしていれば、日向を逃がすことはおろか、死傷者を出すこともなくもっと早い段階で被害を食い止めることが出来た筈だ。
つまり、君たちにも落ち度があるということだ。違うかい?」と倉本が腕を組んで前のめりになって真剣な口調で一喝した。洸太、東、陽助の三人は有無を言わさず、何とも言えない表情でただただ聞いている。
「人の瑕疵に口を尖らせてあれこれ言う前に、先ずは自分の行った行動を反省してはどうかね」と倉本が更に付け加えた。これは明らかに東に対して諭していると分かった洸太は、横をチラッと向いて陽助の隣に座っている東を見た。
案の定東は両膝の上に両手の拳を握りしめて歯ぎしりをしており、感情を抑えるのに必死で今にも怒り狂いそうな表情をしていて、その様子を見た洸太は内心スカッとした気分になった。
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