第68話 事件の振り返り①

「はい。先ず、私と陽助が現場に到着した際、日向雅人は既に平沼誠一の殺害を終えて、平沼の連れと思われる数人ほどの男達をも薙ぎ倒していました。


我々を見た途端に逃走しようとした日向を押さえようと対峙して漸く追い詰めたところを、何者かが放った衝撃波を受けてしまい、そこで意識を失いました。無念で仕方ありません」と記憶を辿りながら無念そうな表情を浮かべて説明していった。


「君と陽助が簡単にやられてしまう程の威力の衝撃波……して、その何者とは一体?」


「岡部です」とここまで静かに聞いていた洸太が質問に答え、唐突に会話に入ってきたので皆驚いて注目する。


「岡部って、あの岡部浩紀の事か?」と隣に座っていた陽助が感情的に訊ねると、洸太はゆっくり頷いた。


「そんな馬鹿な。彼は数日前から失踪している筈だろう。見間違いじゃないのか?」


「岡部で間違いありません。見たことの無い形状の銃まで所持しておりました」


「具体的にどんな形をしていたんだ? 型番は?」


「……さあ、そこまではっきり見ていなかったので」と洸太が申し訳なさそうに言うと、倉本たちがあからさまに落胆した。


「見たことの無い形状の銃か。自作の改造銃の可能性もあるな。それに今、衝撃波と言ったな。まさか」


「はい。どういうわけか、岡部は超能力を開花させているようです……」このことを聞いた五人は驚きを隠せず、互いに顔を見合せる。


「超能力か。まさか、タンカーを転覆させたのも彼の仕業だというのか?」


「えっ、タンカーをですか?」とふいに東が倉本に聞く。


「ああ。君たちを連れ帰った駆けつけた職員の目撃証言では、タンカーが海に横たわっていた状態になっているという信じられない光景だったらしい。ドローンで撮った画像を見れば分かり易いが」と附田の隣に座っていた綾川に目配せして写真を見せるように促す。


 綾川がパソコンを操作して上空からそれを収めた画像が壁に映し出された。表示された画像には甲板が半分海水に浸かっている状態で浮かんでいた。あまりの衝撃に全員が言葉を失う。


「乗船していた乗組員たちの安否は?」


「警察の調べによれば、船体が突如浮き始めた瞬間に全員船から降りたらしく、怪我人は数人出たが、幸いなことに死者は出なかったそうだ」その報告を聞いた洸太がホッと胸を撫で下ろし、誰にも気付かれないように長く息を吐いた。かなり強引で乱暴なやり方でタンカーを海に戻したので、うっかり中にいる乗組員を一人や二人殺してしまったのではないかと不安で仕方なかった。


「これを、岡部が……?」


「あっ、いえ。タンカーがあんな風に沈んでしまったのは、僕の所為なんです……」と批判を承知で恐る恐る打ち明けた。


「どういうことだ」と東が訝し気な視線を向ける。


「岡部はタンカーを浮かして真上から落とすことで僕らを皆殺しにするつもりでしたが、それを阻止するために僕のありったけの念力を使って、海に放り投げたっていう……」


「お前が、あれをやったのか……凄いな。よく潰れなかったな」と陽助が感心した様子で洸太を褒める。褒められると思わなかった洸太は「いやいや」と言いたげな様子で頭を振って謙ったが、内心満更でもない様子だった。


「どうして俺たちを置いて逃げなかったんだ。あの場にいた人間の中で何の訓練を受けていなかったのはお前だけだ。死んでもおかしくなかったんだぞ」と東が腕を組みながら、洸太を一方的に厳しく叱責する。


「いや、でも……」と反論しかけたが、あの異国風の男のこともつい言ってややこしくなってしまいそうになったのでここは口を噤んで何も言わないことにした。今のところあの男については洸太以外誰も何も知らないようだ。


「今回はたまたま運が良かっただけかもしれないが、そういった事態というのは度胸と気合いでどうにかなるものじゃない。お前のその軽率な行動で状況が悪化してしまったら取り返しがつかなくなる。そうなったらお前責任取れるのか?」と東が更に感情的になって叱り飛ばす。洸太はぐうの音も出ず俯いて縮こまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る