第67話 会議室

 翌日。洸太はネオテックの地下二階にある病室にて安静にしていた。一晩眠った後に自分が病室のベッドで寝ていたことに気が付く。身体の痛みと疲労はほとんど消えている。ネオテック専属の医療スタッフが持ってきてくれたであろうプラスチックのトレーが隣の台の上に置いてある。

 

 そのトレーには、五穀米や納豆、味噌汁、卵、ブロッコリーと海藻のサラダが載ったいくつもの皿が。そしてコップも二つあり、一つは豆乳とフルーツをミックスしたスムージーが。


 もう一つはホットミルクが入っていた。健康と栄養バランスを考えた料理がてんこ盛りで、以前食べたことあるものばかりだった。洸太は食事をとりながら昨夜の横浜の倉庫街での事件を思い返す。

 

 平沼との諍いの後、逃走を図った雅人を捕獲しようと戦闘を繰り広げた東と陽助。そこへ浩紀が突然介入してきたことで状況は一変し、更に白い異国風の衣装を纏った謎の男の登場で戦況が激化した。空中で浮遊している状態で闘っていた浩紀と謎の男は、あの場にいた誰よりも桁違いのパワーと身体能力を有していた。


 謎の男は持ち前の強力な念力操作を以て浩紀を止め、被害の拡大を防ぐために尽力した。特に厄介なのが浩紀だった。彼が乱入してきたことによって戦闘の被害が広範囲に及んだのは間違いない。


 失踪した筈の浩紀が生きているのは何よりだったが、口調も性格も凶暴となっており、体型もアスリートのような体つきに変化していてまるで別人になったかのようだった。あまりの豹変ぶりに洸太は戸惑いを隠せない。


 教室にいた頃の面影はなく、混沌と殺戮に飢えているような目をしていた。一番の疑問はやはり、どこでどのようにして卓越した身体能力と超能力を獲得したのか、そして何故雅人と行動を共にしているのかだった。考えれば考える程頭の中で謎が深まっていく。

 

 丁度その時、壁に取り付いていた受話器が突然けたたましく鳴ったので洸太は我に返り、慌ててベッドから降りて受話器を手に取る。


「はい、光山です」探るような口調で話しかけた。


<起きたのか。良かった>


 と電話を掛けたのは東だということが分かった。


「東か。もう大丈夫なのか?」


<ああ。お前の方こそ、その声の調子だと平気そうだな>


「一晩中寝ていたらなんとか。ということは陽助も?」


<そうだ。俺たちは今から地上六階の会議室に行くつもりだ。お前も一緒に来てほしい>


「えっ、僕も?」と驚いて聞く。


「昨日の事件の報告も含めた重要な会議が始まる。社長は光山にも参加してほしいと言っていた。エレベーター前で待ってる。早く来い」と言って一方的に電話を切る。

 命令口調のような有無を言わさない言い方に洸太は戸惑ったが、雅人へ通じる何らかの情報が得られるかもしれないと判断し、渋々行くことになった。ツナギに着替えてエレベーターへ向かい、そこで待っている東達と合流して乗った。

 

 六階に降りた三人は右に曲がってそのまま進んだところの右側に「会議室」と上に書かれたドアが見えた。東がノックし、「入れ」という声が聞こえたので三人はその声に従いドアを開けて入った。


 中は広々としていて、真ん中に長い楕円形のテーブルが置いてある。このフロアの会議室は地下の会議室が全て使用されている時や重要な会議がある際に使うためのもので、それゆえ部屋の面積は広く、会話が外に漏れないようにするために会議室全体が防音室のような仕組みになっている。


 テーブルの向かい側には社長の倉本と秘書の附田と研究開発部主任の綾川も同席しており、テーブルの先端辺りに置いてある手のひらサイズのプロジェクターが壁に映像を映し出している。


「よく来てくれた。本当は君たちが全快するまで待っても良かったが、状況が状況でね。最優先で対策を講じねばと思ってこの会議を設けることになった」


「いえ、とんでもないです。我々もすぐにご報告しなければならないとウズウズしておりましたので」と東が詫びる。「まあ座りなさい」と椅子に座るように促され、前から東、陽助、洸太の順に座った。


「では早速始めよう。先ずは昨夜発生した横浜の倉庫街での事件についてだが、そこで一体どのようなことが起きたのかその詳細を覚えている範囲で教えてほしい」倉本にそう言われた東が深呼吸をしてから話し始める。

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