第64話 スキル

「おのれ……」と吐き捨てると、地上にいる洸太がいることを思い出して下を見た。洸太は意識のない東と陽助を別の倉庫の中へ運んでいる途中だった。


「そこの少年!」男は洸太に向かって大声で呼びかける。


「な、何ですか!?」と上空に居る男の呼びかけに反応して答えた。


「スキルは使えるか?」


「ス、スキルって……?」


「さっきのように物を動かしたり空を飛んだりする能力のことだ!」


「物を動かす程度なら!」


「じゃあそれで良い。協力してくれないか!」


「協力って何を……?」


「この奥の空を見ろ。そして反対側もだ!」

 

 そう言われて洸太は男の遥か先に広がる上空に目を凝らして愕然とする。港に停泊していた幾つもの船舶を遥か上空に浮かんで静止しており、台風並みの暴風でもあの高さまで飛ばされることは無い。

 

 ましてや風雨に晒されているのにも関わらず、空中に固定されたように留まっているなんて物理的にあり得ない。これは紛れもなく高度な念力操作によるものだ。そしてこんな芸当が出来るのは浩紀しかいないと確信した。


「これって……」


「ああ。もし可能なら、君のスキルでこれら全ての船舶を海に戻すのを手伝ってくれないか! 力を貸してくれればこの作業が捗るんだが!」


「無理ですよ。今の僕の力じゃ……出来っこない」と反射的に自分と東や陽助と比較してしまい、劣等感に苛まれて自信無さげに答える。


「そうか、分かった!」今は一刻を争う事態だ。しかし、一般の少年の協力を仰ぐわけにはいくまいと男は自分の力だけで浮遊している全ての船を海に戻すことにした。

 

 先ず、垂直に浮いていた船を水平にゆっくり戻していく。一隻でも地上に落ちたら甚大な被害を与えてしまう。浮いているのは全て使われていない船舶ばかりだった。この嵐の夜にわざわざ船を出す理由など無く、そのため人が乗っていないのは不幸中の幸いだった。力の加減を間違えて誤って地表に落下しないように慎重に戻していく。

 

 もし人が乗船しているのならば尚更注意深く操作しないといけない。そうして全ての船が水平になったことを確認すると、今度は両腕を前に突き出し、それに従って船たちも荒れる海に向かってゆっくり動き出していった。


 激しく吹きつける風に流されないように念力を強め、そして海面ギリギリの高さまで降ろしていき、念力を解除して全ての船が無事に着水した。さすがにこれだけの数だと体力の消耗が激しく、男は力尽きたように地上へ降りていった。洸太がたまらず駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」


「なんとかやり遂げたよ。ハァ、経験値や能力の強さと鍛練もそうだが、『絶対にやってみせる』という気持ちが何より大事だということだな。何事においても」と一仕事を終えたような達成感に満ちた表情で言う。


「ごめんなさい。僕にもっと力があればこんなことには……」


「良いんだ。正直に答えてくれてありがとう。出来ないという意志を伝えられることは、自己を客観視出来ているということだ。自分の出来る範囲外のことを無理にやろうとすれば失敗するだけだからな。


だが、先ずは何事も挑戦してみること。そして絶対に成功するという気持ちで挑むこと。それが自身の成長に繋がるんだ」と自分の力不足で助けられなかったことに歯を軋ませて謝る洸太に対し親切にアドバイスする。

 

 これにて一件落着だと思ってふと空を見上げた次の瞬間、上空にひときわ大きな影が現れた。その影が雲を抜けてぼやけたシルエットが形となってはっきりすると、上空から巨大な一隻の石油タンカーが落ちてきていて、それを見た洸太と男は驚愕する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る