第60話 ネオトルーパーズ見参

 そこへフラッと現れたのが東と陽助だった。色々な悲鳴を聞き、発達した鼓膜の有毛細胞で瞬時にキャッチして脳内で鮮明に映し出された情景を頼りに出来るだけ速く現場へ駆けつけた。

 

 しかし二人の目に飛び込んで来たのは、至るところでぐったりしている男たちと、その奥には呆然と立っている雅人とその目の前で苦悶の表情を浮かべたまま断末魔の表情を浮かべて力尽きていた平沼だった。二人は一歩遅かったと悟った。


「あーあ、だから忠告しておいたのに。墓穴掘ったな」と東が独白するように言う。半ばこうなることを予想していたような言い方だった。


「あいつか。例のトラブルメーカーっていうのは」


「重要参考人だ。拘束して連行しろとの命令だ。くれぐれも殺すなよ」


「ああ、分かってるって。あいつを捕まえるぐらいなんとかケイクって言うだろ」


「それを言うならピース・オブ・ケイクだ。行くぞ!」と言ったと同時に突撃した。襲い掛かって来る二人を拒絶するように念力を発して弾き飛ばす。不意打ちの念力を受けた二人は即応できず、衝撃波を一身に受けて後方へ煽られた。

 

 雅人はその間に逃走を図るも、新体操選手のような華麗な体捌きで着地して高速で駆け抜けてきた東に行方を阻まれてしまう。


 突如目の前まで迫ってきた東に呆気に取られるも、今はこの場から逃げることだけを考えて殴って退けようと拳を前に出した時、東も同時にパンチを繰り出してきた。身体が空中に浮いたまま互いの拳が衝突し、その反動で弾き返された。

 

 雅人はあまりの痛さに「ぐあっ!」と発して悶絶したが、対する東は少しも音を上げることなく怯んだ隙に蹴ってきた。東の強烈な蹴撃を受けて「うぅっ!」と発して壁に激突して倒れる。咄嗟に両腕で防いだお蔭であまり痛みを感じなかった。

 

 サッと態勢を立て直して今度こそ逃げようとしたその時、このまま逃がすまいと陽助が「ウオオオオオオ!」と雄叫びを上げて殴りかかってきた。雅人は構える暇も与えられず腹部に重いパンチを受けた。その後、顎や顔を怒涛の速さでまるでサンドバッグのように無防備の状態で立て続けに殴られ、みるみるうちに身体が壁にめり込んでいく。


 そして仕舞いに回し蹴りを食らった瞬間、壁ごと外に飛び出して後ろ向きで地面を数回転んだ後に止まった。


「クソ、ついやり過ぎてしまった」と陽助は雅人が外へ放り出された方向を見ながら反省した。


「お前、加減っていうのを知らないようだな」と近寄ってきた東が呆れた風に言う。


「悪かったな。だがこんぐらいやんないと大人しくならねえだろ。あいつは見るからに観念しなさそうだったし」


「それでうっかり殺してしまったら元も子もないだろうが」と東が苦言を呈し、その後二人は雅人の行方を追って倉庫の外へ出た。

 

 雅人は咳き込んだ。覚醒した超能力と強靭な肉体によって痛みはそれほど感じなかったが、パンチや蹴りを何発も浴びせられて袋叩きにされればさすがに身体に応える。今までの経験でこれほどまでに追い詰められたことなど無かった。


 あの二人はこれまで懲らしめてきたチンピラたちとは全く違う。抜群の身体能力や格闘術もさることながら、どういうわけか自分と同じ超能力を有していることも分かる。彼らは特殊な戦闘訓練を受けてきた者たちに違いないと読んだ。

 

 ならばこちらも死ぬ気で挑むべきと考えたが、二対一ではさすがに分が悪い。これ以上抵抗すれば殺される。刺客として送り込まれて来たからには自分をそう簡単には逃がしてくれないだろう。

 

 至急この場から立ち去らなければと思って立ち上がろうとしたその時、襲ってきた二人の他に誰かが近くにいることが分かったので、パッと顔を上げた時に目に飛び込んで来たのは、激しく吹き荒れる雨風に煽られないように小さく蹲って踏ん張りながらこちらを見て呆然としている洸太の姿だった。互いに目が合ってハッとなる。

 

 ここに到着した時には既に戦いが始まっていて、洸太は倉庫の外で巻き込まれないように三人が激しい攻防を繰り広げているのをじっと見ていた。誰からも指示を受けずただ二人に付いていっただけだったので具体的に何をすれば良いのか分からずにいた。


 戦いに参加したい衝動に駆られたが、自分が介入できる余地など全く無く、いざ参加して援護に回ったところで却って足手まといになるだけだろうとさえ考えた。その思考すら烏滸がましいと思えてしまう程戦いが凄まじく、結局ただ歯を食いしばって見物することしか出来なかった。


 その上、この雨の中では立つことなどままならず、さながら嵐のような悪天候で荒れ狂う波が波止場に勢いよく打ち寄せる音が時々聞こえてきて幼少期のトラウマが蘇り、足が竦んで一歩も踏み出せずにいる。


「日向……」と何か思い詰めたような表情を浮かべており、そんな洸太に対して雅人はただ顔を顰めている。

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