第55話 聞き取り調査③
「何故そう言い切れるの?」
「俺はあの時、近くの物陰に隠れながらこっそり見てしまったからさ。まあ、その当時は遠くて暗かったからシルエットでしか分からなかったけど、ついこの間あいつが打ち明けたんだ。追いかけた末に兄貴はそのまま道路に飛び出していったってな」
「だとしても日向には何の過失はない。差し迫った状況とは言え、信号を無視してしまったお前の兄貴が悪い」
「お前らが何と言おうが、俺の兄貴を追い詰めて殺したことに変わりねえんだよ」
「なんか悲劇のヒロインぶってるようだけど、元はと言えばお前たち三人が手あたり次第他人を虐めていたぶって弄んできたことが事の発端となったからだろ。それがよりによってその事件と繋がったってだけだ。きっかけを作ったのはお前達だ。
自分の欲を満たすためとか娯楽のためとか何だか知らないが、自分たちの犯してきた罪を棚上げにして当時の事件を蒸し返して日向を全面的に悪者扱いするなんて八つ当たりにも程があるんじゃないのか」
「うるせえな。見ず知らずのお前の説教なんて聞きたくねえんだよ。日向を殺し損ねた。それを知れたことが重要だろ」
「まさかとは思うが、報復しようなんて考えないよな」
「さあ、どうだろうね」と真剣な口調で尋ねる東に対して、軽いトーンであからさまに茶を濁した。
「よく聞け。お前たちは十中八九あいつを探して今度こそ息の根を止めようって気だろうが、止めた方が良い。この件については俺達で対処する。だからお前たちは大人しくしていろ」
「フン、初めて会ったお前の言うことなんか信じられるかよ。光山なんて尚更だ。こいつはついこの間俺たちにボコボコにされただけで何も出来なかったんだぜ?
そういう奴って言うのはいつまで経ってもメンタルがチキンのままなんだよ。そんな奴に任せる方が逆に不安だわ」吐き捨てるように論う平沼の言葉に洸太はぐうの音も出ず、俯いてただじっと聞いていた。平沼や城崎たちから暴行を受けていた時のあの光景が脳裏に蘇る。東は続ける。
「いずれにせよ、復讐なんてくだらないこと考えるな。俺はお前たちの為を思って言ってやってるだけだ。いいな?」と前のめりになって念を押す。
「分かったよ、面倒臭えな。話は終わったか? もう帰ってくれよ」と不貞腐れたように舌打ちすると、突っ撥ねるような言い方で言い放った後に姿勢を正しコントローラーを手に取りゲームを再開した。
「忠告はしたからな。それから俺たちはお前たちの行動に目を光らせている」と徐に立ち上がり、最後にもう一度だけ言い聞かせるように言って洸太とともに平沼の自宅を後にした。追い出されるように家を出てエレベーターに乗り、一階まで降りて行く途中で東が洸太に話しかけた。
「自分をいじめた仇が目の前にいたっていうのによく我慢出来たな。俺だったらせめて一発ぐらいはパンチを入れるけど」
「怒りより、恐怖の方が勝ってたから」
「あんな奴にビビっても仕方ないよ。なんなら俺が代わりに殴りに行ってやろうか?」
「待ってくれ。今はそんなことしてる場合じゃないし、そっちだって復讐は止めろって言ってたじゃん」
「そんなの本音な訳ないだろ。冗談半分で口にしたっていうのもあるから」
「どういうこと?」
「ああいう性格の人はプライドがずば抜けて高い。煽って焚きつければじっとしてられなくなるもんだ。で、向こうが何かしらの動きを見せてその後を追っていけばいずれは日向のところへ辿り着くんじゃないかって考えたのさ」と、東がしてやったりの表情を浮かべながら話し、それを聞いて洸太は背筋が凍るような感覚を覚える。
雅人への復讐を諦められない平沼ではなく、その平沼を利用して雅人を捕えようとする東の方が余程恐ろしいのだということをこの時改めて知り、接し方に気を付けないといけないと怖くなる。
エレベーターが一階に到着し、マンションを出た二人はその後陽助と合流した。
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