第54話 聞き取り調査②

 最近建てられたばかりの高層マンションだからか、話しているうちにエレベーターはあっという間に最上階に到着し、出てそのまま右へ歩いて一番奥のドアの前で止まってインターフォンを鳴らした。すると平沼が出てきて二人は中へ招き入れられ、靴を脱いでリビングへと案内された。


 広さ十畳を誇るリビングは大型の液晶テレビと棚とカーペットのみというシンプルなインテリアに、ガラス張りの窓からは東京中を見渡せるだけでなく、太陽光を多く取り入れるというお洒落な造りとなっている。


「一人か。親は?」平沼の家の内装にうっとりしている洸太を他所に東が訊いた。


「仕事だよ」と不服そうに答えながらシックなソファにだらんと座って中断していたゲームを再開した。折角優雅に過ごしていた貴重な一人の時間を邪魔されてご機嫌斜めらしい。


「お前も来てたんだな、光山」


「う、うん……」と洸太は若干怯えながら答えた。


「で、何しに来たんだよ。この前の仕返しか」


「いや、そんなことはもういいんだよ。こうして生きてて傷も治ったし」


「へー。じゃあ何」


「恵倫高校の件、聞いてるよな」


「なんだ、そのことか。ニュースで知ったよ。地震だったんだってな」とコントローラーを操作しながら素っ気なく答えた。操作する指が忙しなく動く。


「お前を含めた数名の学生が学校にいない間に起きた出来事だ。巻き込まれなくて良かったな」


「その日はたまたま用事があって。後でその話を聞いて驚いたよ。先生からも暫くは自宅待機って言われてるし。まあどうでもいいけどね。これで学校行かなくて済むからな」


「もしその地震が人為的に引き起こされたものだったとしたら?」


「えっ」とコントローラーを操作する手を止めてふと東を見上げると、東はうっすらと笑みを向けていた。テレビの画面にはゲームオーバーの文字が表示されている。


「人為的ってどういうこと」


「ニュースではどこかの活断層に溜まっていた歪みが限界に達してそこがずれて歪みが解消されたと報道されているが、あのあたりの地区の地下にはそういった活断層は存在しない。地震と呼ぶにはとても不可解な点が多いんだ」


「な、何が言いたいんだよ」と明らかに戸惑いを隠せない様子で言った。


「君を含めた一軍の連中が一人の少年と接触したことがあるだろ。日向雅人に思い当たる節は?」と尋ねた途端に平沼が黙り込んでポーカーフェイスを決め込み、図星と睨んだ東が「あるんだね」と言って迫る。


「まさか、あいつが生きてるっていうのか。あいつが学校を……?」


「まだ日向が犯人と断定したわけではない。ましてや生死も不明のままだ。ただ、あいつの超能力なら学校を半壊させることぐらい造作もないと考えられる」


「お、俺は信じないぞ。確かに俺たちはあの時あいつを……」


「殺した」と露骨に動揺する平沼の言葉を東がその後に口にする言葉を代わりに呟いて繋いだ。それを聞いて平沼は視線を外して項垂れる。黒目が重心を失ってよろめいて泳いでいる。心臓の鼓動も速くなり、身体が強張っている。


「何で日向を殺したんだ」


「あいつが俺の兄貴を殺したからに決まってんだろ」


「ここに来る前、お前たちの関係について調べた。三年前の九月三十日、日向の父親はトンネルで何者かに殺され、その近くでお前の兄貴の遺体が見つかっている。死因は兄貴が道路に飛び出し、横から走ってきたトラックに轢かれたことによる事故死だったそうだな」


「警察は事故死として処理したが、それは間違ってる。あの夜、兄貴がトラックに轢かれたのは日向の所為だ」

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