第53話 聞き取り調査①

 三人はその後すぐに声の発生源と思われる現場に急行した。彼らの目に映ったのは惨憺たる光景だった。


 校舎の半分が倒壊して瓦礫の山となっており、負傷した人々が応急処置を施され、またある人達は力を合わせて瓦礫を退かし、生き埋めになっていた人を救助していた。


「が、学校が……」


 既に悲劇が起きた後だったことに凍り付いて呆然としていると、「そこで何ぼーっと突っ立ってるんだ。早く手伝え」と注意を受けたので早速救助の手伝いに行った。中でもとりわけショックを受けていたのは洸太だった。


 ここは嘗て洸太が通っていた高校だったため、複雑な感情を抱いていた。やっぱり同行しなければ良かったかなとさえ思いたくなる。懸命な救助により死者を一人も出すことなく全員無事に救出され、そのうちの重傷の人達は到着した救急車に載せられて病院へ搬送された。


 救助活動を終えて再び三人で集まって今回の地震の原因について話し合った。社長秘書の附田から事前に伝えられた情報によれば、警察と消防が調べた結果、今回の地震は不明な点が多く存在し、解明には時間がかかると言う。


 この学校の地下に活断層があってそれが何かの拍子にずれたことで発生した可能性もあり得るのではないかと思われたが、不思議なことにこのあたりの地域にはそれを示す活断層が存在しない。もし地震があったのなら、一帯は揺れで倒壊して地面に何かしらの割れ目や裂け目が生じる筈だとしてその線は除外された。


 その他にも学校から半径五百メートル以上離れた家屋は被害を受けていないことや、被害は学校を中心に被害が拡大していっているという点を踏まえ、やはりこの事件は超能力によって引き起こされただろうと結論付けた。


「何が起こったのかおおよそ見当がついた。しかしこれだけでは全貌が掴めない。実際にどういう状況だったのか直接聞いて回るしかないな。行くぞ」


「ちょっと待てよ。さすがにこの状況で聞き込みはまずいだろ。トラウマを呼び起こすだけだ」


「陽助の言う通りだ。今行ったところで有力な情報が聞き出せるとは思えない。加えて、あれが実際に日向の仕業なのかどうかも微妙だ」と逸る気持ちを抑えられない東を止めて説得する陽助と洸太だった。


「被害に遭われた方々に話を聞こうなんて一言も言ってないさ。それぐらい分かってるよ。会いに行くのはあいつと関係のある人物だ。入手した生徒の出席簿を調べたら俺の思った通りの三人に絞りこめた。お前と因縁のある人たちだよ」


「因縁?」と洸太は聞き返したと同時に脳裏にあの三人の顔がパッと浮かんだ。


 話し合いの末、一旦ネオテックに戻って日を改めて昼頃に聞き込みをすることとなった。対象は平沼誠一、楠本樹そして城崎真の三人。三人は東と陽助の二手に分かれて行動し、陽助は楠本の自宅へ。


 そして洸太と東は城崎の自宅へ向かおうとしたが、行く前に城崎の自宅に電話して城崎がいるかどうか確認してみたところ、電話に出た母親曰く、大学を見学するために丁度昨日アメリカへ発ったとのことだったので城崎への聞き込みは見送りとなった。


 平沼達は有名な建築士に頼んで造られたというのでさぞ奇抜なデザインの家なのだろうなと気になって実際に見に行けると胸を躍らせていたのにそれが叶わず少し残念がった。


 次に平沼の自宅に電話してみたところ、一人で在宅しているとのことだったので急遽行き先をそこに変更して足を運んだ。このあたりの地区に住む人から見れば誰もが羨む二十階建てのタワーマンションで暮らしているという。入り口付近で立ち止まって平沼がいるであろう最上階の部屋を見上げながら風除室を通ってエントランスの中へ入った。


 豪華でハイクラスな内装で、東は透明なガラス扉の横に置いてあるオートロックに数字のボタンがあるので平沼の部屋の番号の後に呼び出しボタンを押して、二人は付いている小型カメラをじっと見つめた。二人の姿が確認できたのか、自動ドアが無音で開いて二人は入っていった。エレベーターで最上階まで上っている途中、緊張で身体が強張っている洸太に東が気付いて話しかける。


「怖いか?」


「あ、うん……」と慌てた様子で答えた。


「無理に強がらなくていいからな。あいつから酷い暴行を受けたんだ。怖いのは当たり前だよ。もし本当に嫌なら外で待ってていいからさ」


「ありがとう。でも、大丈夫。このまま一緒に行くよ」と込み上げる平沼への恐怖を抑えるように言った。気遣ってくれた東に対する感謝の気持ちだけでなく、トラウマに苦しむ自分自身を勇気づけるために言った言葉でもあった。

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