第52話 能力指数

「呑み込みが早いね。その通りだよ。俺たち三人は、注入されたヌミノーゼ遺伝子の力によって超能力の一端に触れ、そして多少なりともコントロール出来る段階にまで到達した。そしてその力を使い、主に警察が手に負えない極悪人や法で裁けない犯罪若しくは事件を解決すること。それがネオトルーパーズという極秘裏に結成された特殊機動部隊だ」


「ネオトルーパーズ……」


「ああ。そして俺達ネオトルーパーズをあらゆる面で全面的にサポートしてくれるのがここネオテックだ」


「ネオテックって確かアメリカカリフォルニア州のシリコンバレーに本社を置く、テクノロジー企業だよね。人間の未知なる可能性を切り開くために挑戦するという理念を掲げていて、人間工学に基づいて製作した義手や義足やIT関連商品の開発と販売など様々なプロダクトを取り扱っている他、途上国への支援と言った多岐に渡って様々な事業を展開している世界的に有名な企業なんだとか」


「その通りだ。ネオテックの英語では、Neo Tech Corp. Advanced complex research institute for Archeology, Neuroscience, Cell biology, Ergonomics, Robotics and Informationと表記されている。


直訳すると細胞工学、脳科学、人間工学、ロボットIT技術の総合研究所だ。正式名称は長ったらしくて言いにくいため『総合人間工学』と一括りに省略して呼称している。だがそれらのビジネスはあくまでネオテックは優良な企業であることを信じ込ませるためのイメージ作りであって本当は超能力研究及びそれに関連する技術の開発がメインだ」


「その中心にいるのが僕たち……」


「まあ、まだ創設されたばかりのひよっこどもの集まりだけどね」と陽助がここぞとばかりに補足した。


「そうだ。多少なりにコントロールできるとは言え、完全ではない」


「それってどういうこと?」


「ヌミノーゼ遺伝子を組み込まれた者には『能力指数』というものがあってな。パーセンテージごとに四つのレベルに分かれるのさ。


先ずはレベルⅠ。覚醒率三から八パーセント。意識を集中させるだけで物を動かすことが出来るが、発動初期のため不安定で不正確。感情の起伏により無意識に発動する場合があり。エネルギーの消費はかなり激しい。


続いてレベルⅡ。覚醒率が十から二十パーセントまで上がる。念力の操作にムラが無くなって正確性が高くなり、感覚機能と身体能力も鋭くなる。皮膚感覚も強化され、パンチ等の殴撃や打撃を受けても痛みを感じなくなり、視力も3.0まで上昇。念力は一つの物体だけでなく複数個動かすことが可能となる。しかしエネルギーの消費量はレベルⅠとさほど変わらない。


その次がレベルⅢで、覚醒率は二十から二十五パーセント。念力の操作がレベルⅡのそれより数段向上し、エネルギーの消費量も少なくなる。大きいトラックから小さな埃まで大小さまざまな質量の物体を自在に動かすことが可能。感覚機能は更に研ぎ澄まされ、超人的な身体能力も体得。痛覚と痛点が麻痺し、痛みを全く感じなくなる。


そしてレベルⅣ。覚醒率二十五パーセント以上。最小限のエネルギー消費だけで形状や質量関係なくどんな物質でもいとも容易く念力で操作することが可能。自然治癒力の急激な速度増加。浅い傷は数十秒で治り、重傷の場合は数時間から一日で完治する。どんな極限環境にも適応でき、致命傷を追わない限り「死ねない」身体に進化する。


我々が最終的に目指すは、最後のレベルⅣの領域だ。そこに到達出来れば俺たちは遂にネオテックの求めている究極の人間兵器になり、国防の最前線に出向いて国に貢献する。素晴らしいと思わないか? 今の日本は危機感の無い脆弱な国へと落ちぶれてしまった。国を変えるには俺達のような特殊な能力を持つ者を増やす必要がある。ここまでの説明で何か分からないことあるかい?」


「……要するに、戦前のような富国強兵を推し進めようというんだね」


「最新技術を駆使した人間兵器による新時代の富国強兵だ。今はまだ実験段階で乗り越えなければならない課題も多いが、それらを一つずつクリアして正式に承認された暁には……ん?」


「あっ……」と陽助も同時に耳鳴りがして様々な声が響いて来た。


「うっ……悲鳴が、頭の中で鳴り響く……これは……」


洸太は床に倒れて頭を抱えながら悶え苦しんでいるのに対し、日ごろから訓練を受けている東と陽助は痛みを感じることなく両目を閉じて聞こえてきた声に耳を欹てた。発達した鼓膜の有毛細胞で瞬時にキャッチして脳内で情景のイメージを鮮明に映し出す。頭痛と共に聞こえてくる複数の叫び声や喚き声。

 

 地震で左右にグラグラ揺れる学校の中でパニックになって泣き喚く生徒たちの阿鼻叫喚な光景が浮かび上がった。いつぞやの夜にとある家の母と子が抱き合って炎に囲まれて助けを求めている叫び声を聞いた時と同じ現象が起こった。


「凄い数だ。苦しそうだった」


「大丈夫かよ」と陽助が洸太の身体を起こして座りなおすのを手伝った。


「う、うん……ありがとう」


「どこかの学校で大勢の生徒や先生が何かの事件に巻き込まれたに違いない。急ごう。光山、お前はどうする。俺達と一緒に来るか?」


「……僕も、何が起きてるのか知りたい」漸く痛みが晴れて洸太はそう答えた。折角事の重大さに気付いておきながら見て見ぬふりをするのはあまりにも気が引けるというので出した答えだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る