第49話 ヌミノーゼ遺伝子

「えっ、年上!?」と洸太がパッと顔を上げて目を見開いた。


「そんなに驚くことか。何歳だと思ってたの?」と陽助が意外そうに尋ねた。


「てっきり同い年かと」


「実年齢当ててみる? もしお前があいつの年齢を見事当てたらこの授業は免除だ。外れたら受ける。どうだい」と唐突に無茶ぶりを押し付けてきた。


「……やってやるよ」洸太が陽助の無茶ぶりに受けて立ち、東も了承してくれた。洸太は見当もつかないまま考えに考えて「二十五?」と恐る恐る答えたが、東は「違う」と冷淡に返す。


「あれ、二十七じゃなかったっけ?」


「この間で二十八になった」


「へえ、そうだったんだ。全然見えないよな」と陽助が座りながら洸太に共感を求めるも、洸太は不服そうにしていて何も答えなかった。


「というわけで授業を始める。実年齢を聞いて驚くぐらい外見が若く見えるのは、体内にあるヌミノーゼ遺伝子による作用が働いているお蔭さ」


「ヌミノーゼ遺伝子?」


「そうだ。別名全能遺伝子と呼ばれるそれは、身体を構成する一つ一つの細胞内になる染色体の末端にくっ付いているテロメアを伸ばして老化や寿命が短くなるのを防ぐ他、身体能力向上と全身の筋肉量の増強、あらゆる刺激や細菌及びウィルスへの耐性、自然治癒力の飛躍的な向上によって体に受けたどんな傷でも常人より数倍の速度で完治するといった様々な身体的特性を伸ばす大変優秀な遺伝子だ。


そしてその最たる特長というのが、この遺伝子を一定量以上有する者は超能力を開花して操ることが出来るというわけだ」


「じゃあ、僕の身体も……」


「ああ。俺や陽助と同じ、肉体強化されて超能力――正確には念力が使える能力者になった。いや、もっと厳密に言えば漸く念力が目覚めたということだな。思い当たる節があるだろう」

 

 洸太は顎に手を当ててこれまで自分の身に起きた奇妙な出来事を回顧した。偶然立ち寄ったコンビニではポルターガイストみたいに蛍光灯やガラスが突然割れてしまったこと。リストカットをしても速く傷が治ってしまうこと。


 電柱を強く掴んでうっかり倒してしまい、念力で倒れる方向を変えて通行人を助けたこと。数百メートル離れた場所にある一軒家に住む家族が無理心中を図ろうとして家に火をつけたイメージが浮かんで現場に駆け付けたこと。


 渓谷で雅人が城崎たちに集団で暴行を受けていたとき、木の枝が自分の意志とは関係なく勝手に引きちぎられて平沼を目がけて飛んでいったこと。


 そして、怒り狂って自分を殺そうとナイフを持って襲い掛かってきた母親を、念力で家ごと吹き飛ばしてしまったこと。思い返せば、これまで自分の身に起こった摩訶不思議な現象に悩まされたことは幾度とあった。


「言われてみれば、常識では考えられないような出来事にこれまで何度も遭ってきた……その度に頭が割れるように痛いし、失血死するんじゃないかって言うぐらいの量の血も吐く……これ以上念力を使えば、僕の身体はどうなるんだ。もしかして死ぬの?」と椅子から立ち上がって差し迫ったような表情で訴えるように訊く。


「落ち着け。それらの症状は念力を使った反動で表れるものだ。それに加えて、もし仮に念力を必要以上に使うようなことになったとしても、体内に含まれるヌミノーゼ遺伝子が作用して命を繋ぎ止めてくれるさ。だから心配する必要はない」と東が冷静な対応を取り、その説明を受けて洸太は再び椅子に座りなおして思い詰めた様子で考えた。


 東の言った通り、頭を金槌で打ち付けられているような激しい頭痛に襲われて血反吐を吐くといった副作用が出たとしても、意識不明の重体になるようなことは一度も無く大抵の場合次の日あるいは数日後には嘘みたいにすっかり元通りになっている。


「どうして念力を使うと頭痛がしたり、血を吐いたりするの? そもそも念力を発動する仕組みって?」


「やっと聞く気になったか。良いだろう。じゃあ、ネオテックで行われている研究の話は後にして、ヌミノーゼ遺伝子がどのようにして念力を生み出すのかについて教えるよ。そっちの方が気になってしょうがないもんな。


だがその前に俺達の周りに存在しそれぞれに働く『力』とは何なのかについて説明しなければならない。物理は好きかい?」と洸太が漸く聞く姿勢を示してくれたことに上機嫌になり、得意げに話し始めた。

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