第41話 秘密会合

 その夜。皆が寝静まった夜半に東は一人施設の廊下を歩いていた。明確な目的を持ったその足取りで廊下を歩いていると途端に立ち止まって壁を向く。


 壁の真ん中あたりに手を触れて押すとロックが解除され、入る前にもう一度左右を交互に見て周囲に誰もいないことを確認して体重を乗せて壁を押して入っていった。


 中に入るとまた部屋へ通じる鉄製のドアがあり、今度はその前に立って右上を向く。目線の先に監視カメラがあったので、東だということが認証出来てドアのロックが解除され開けて入り、部屋の中で綾川がパソコンを操作して何かの作業をしていた。


「どうだ、見つかったか?」


「駄目だ。裏のサーバーでも帳簿らしきものは見当たらなかったよ」


「やっぱり社長の執務室にあるパソコンからアクセスするしかないか」


「無理だろうな。執務室のドアはまるで金庫みたいに厳重なセキュリティが施されていて、開けるには唯一無二の特殊な形状の鍵が必要だ。無論無理矢理こじ開けようとすれば直ちに警備員が飛んで来る」


「どうやったって入れないということか。じゃあ他に手は無いのか」


「裏サーバーを物色している時にこんな面白いものが見つけちゃってさ」と上機嫌そうに言ってキーボードを操作すると、画面上に黒いボックスが表示された。


「これは、まさかこの会社のブラックボックス?」と東が前のめりになって聞く。


「執念深くサーバーを潜ったらあったんだよ。何が入ってるんだろうなあ。もしかしてお目当てのものだったりしてな」とニヤニヤしており、ブラックボックスの中身に興味津々だった。


「上出来だな。あとはこの箱を開いて中身が何なのかを確かめるだけだ」


「任せてくれ。ただこういう特殊な媒体っていうのは結構頑丈なプログラムで固められてるから解析にはまだまだかかりそうだ。一週間は見ておいたほうがいいかもしれない」


「でもお前なら数日でやってのけるだろう」


「任せとけ。技術開発主任研究員としての腕の見せ所だな。俄然やる気が出る。東こそ、何か収穫はあったか? 倉本社長と面会したんだろ」


「ああ。近々『エッグ』という詳細不明の品物がここに運ばれてくるらしい。その運搬の護衛を俺に頼みたいんだと」


「詳細不明か。社長から直に頼んで来たということは、余程のブツなんだろうな。いずれにせよ、棚から牡丹餅とはこのことを言うかもな。ひょっとして核爆弾そのものか、あるいはそれを構成するパーツか放射性物質か」


「今は何とも言えない。だが、倉本を引きずり下ろす絶好のチャンスであることは間違いない。護衛する車両に乗って運んでいる例の品物を確認した後、そのまま飛行機に乗ってアメリカへ発つ。強奪した品物を証拠として突き出して彼の悪事を白昼の元に晒す。それが俺の計画だ」


「なるほど。もし核爆弾か放射性物質を運搬するとなれば目立ってはいけないから当日の人数は数人程度と手薄だろう。そうなれば言った作戦通りに持ち込めると思う。何かサポートできることがあったらその都度言ってくれ」


「かたじけない。じゃあ早速頼みたいことがあるんだけど」と言ってポケットに手を入れて取り出したのは丸に近い楕円の形をした黒い鉱石のような石だった。


「これは?」研究者としての興味が湧いたのか、渡された石を手に取って顔を近づけて食い気味に凝視する。


「この石の成分を調べて欲しい。ある人物からお守りとして渡されたものだ。どういう物質で構成されているのか、どういう製法でこのような形に出来上がったのか知りたい」


「ちなみにこのお守りの石について他に知ってる人はいるのか。そもそも何で俺なんかにこんなこと頼むんだ? 向こうで調べることだって出来ただろうに」


「いないよ。わざわざ見せる理由もないわけだし。それに、込み入った事情があって頼れる人間がいなかったんだ。だからこそ綾川に内密にお願いしたい」


「それってつまり、どんな実験にかけても問題はないということで良いんだな? もし砕けてしまったり罅でも入ったりしたらどうする? 罰が当たったり祟られたりしたら嫌だからな」と怖気付いた様子で念を押すように訊ねる。


「その時はその時に考えれば良いさ」


「……分かった、やってみるよ。結果が出たらすぐに連絡する」と東からの依頼を渋々承諾することにした。


「頼りっぱなしで悪いな」


「まあ気にするな。それより連れてきた少年の具合はどうだ。早速装着したリストバンドの洗礼を食らったんだって?」


「ああ。思いの外手がかかりそうだ」


「客観的に見れば誘拐されたみたいなものだからな。上手く馴染めると良いけど」


「どの道ここでしか生きられないさ。あいつはそれを理解している筈だ。でも変なプライドが邪魔してその事実を認めようとしないだけ。


肉体は成熟しているっていうのに精神はまだ子供のまま。実際に社会に出れば環境なんて選べないことだってごまんとある。でもそれは俺達ではどうすることも出来ない。


周りの人間に出来るのはアドバイスして道を指し示すことぐらいだ。最後は自分の意志でその弱さを認め、プライドを捨てて前に進もうとしない限り自立出来ない。大人になるとはそういうことだ」と東が神妙な面持ちで持論を述べる。


「あと、応援してくれる大切な存在がいるかいないかで大きく変わってくる」と綾川が付け加える。


「家族のことか」


「そう。偽りではなく血の繋がった本当の家族」


「それについてはもう調べは付いてるのか?」


「もうすぐ届く筈だ。今の光山君にとって希望の光となるような結果になれば良いんだけど」


「そうだな」

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