第40話 東と陽助②

「こうしてる場合じゃない。行かなきゃ」実の母親を探すという本来の目的を呼び起こし、慌てた様子でベッドから降りようとする。


「まだ安静にしてろ」


「ちょっと疲れているけど問題ないよ」と立ち上がった直後、よろけて膝をついて「うっ!」と突然全身に電流が迸って痙攣して猛烈な痛みに悶絶する。


「フッ、まるで獲物を捕らえる肉食動物のような鋭い目つきだね」見下ろしてそう告げる東に、洸太は床に蹲っている状態で反抗的な視線を向ける。


「君の左手首に付いている黒いリストバンド。お前が妙な行動を取った瞬間、神経系を刺激する特殊な電流を自動的に送る仕組みになっているのさ。勿論この部屋から抜け出そうとしても即座に作動する。


外すにはパスコードを入力しなければならない。まあ、教えることは無いけどね。だが、お前も同じ能力者であるならほどなくして痛みは消えるだろうが」東は洸太の苦しむ様子を意に介さず淡々と説明していき、肩を貸してベッドに横たわらせた。


「何、だって……」表情が引きつっていて顔も真っ青に変色している。


「自分でも薄々気付いていたんじゃあないのかい? 心当たりがある筈だ」


 その言葉通り思い返してみた。どんな傷を負ってもたった数日という驚異的な速さで完治する治癒力。感情の起伏により自分の意志と関係なく発動する念力。日を追うごとに増していく超人的な能力。そんな自分に常に恐怖を抱き続けてきていた。


「お前が眠っている間にそのリストバンドを巻き付けたのは俺だ。手荒な真似をしてすまない。だがこうでもしなければどんな手を使ってでも逃げ出すだろうと思ってね。これはネオテック日本支部社長である倉本さんの意向でもあり、俺達適合者の宿命でもあるんだ。


これから二十四時間監視下に置かれるが心配することはない。ここで訓練を重ねればその能力も意のままに操作できるようになる。身の安全も保障される。ここはそういう施設だからな」


「そんなの……納得、出来るわけ……」少し痛みは引いていき、ぎこちないながらも喋れるようになった。


「今理解できなくてもそのうち分かるようになるさ。これだけは言っておこう。超能力が目覚めてしまった以上、もう元の日常には戻れない。いずれ自分ではどうしようもなくなって、暴走して身を滅ぼすことになる」


「くっ……」


「とにかくまずはゆっくり休んでくれ。今後のことは明日の朝話すよ。じゃあね」そう言って東は部屋を後にした。何も出来ずもどかしい思いに打ちひしがれる洸太だった。


 どうにか力技でリストバンドを外そうとするがびくともしない。念力で外すことを試みようとするが、また電流が流れてしまうと思うとその激痛のショックで死んでしまいそうな気がして諦めた。

 

 今日一日で色んなことが起こり過ぎた。雅人を騙して罠に嵌めた挙句救いを求める彼に背を向けて走って逃げた。その後家に帰ったら今までずっと母親だと思っていた人が実は里親だったという衝撃的な事実を突きつけられ、そのショックで超能力が暴発してナイフで襲い掛かってきた母親を返り討ちにしてしまった。


 そんな自分が嫌になって実の母親を探そうと当ても無く街へ駆け出した時に城崎たちと鉢合わせして意識が無くなる痛めつけられ、再び目を覚ましたらネオテックの研究所らしき謎の施設に運び込まれて自分や雅人と同じ能力を持っている人たちと出会い、特殊なリストバンドを付けられて軟禁状態になっている。

 

 自分の身に起きたそれぞれの出来事の内容がどれも衝撃的で、そうして激変する日常にとにかく感情と理解が追い付かない。一体この先自分はどうなってしまうんだろうかと不安に押し潰されてしまいそうになった。それらを振り返るだけでそのまま朝を迎えてしまうだろう。


 加えて、先ほど味わった電流のショックの所為で脳と目が冴えていて寝付けない。それでも、これが悪い夢であるなら醒めてくれと切に願う自分もいるのは確かで、その日の夜は頭を空っぽにして寝られるように努めた。

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