第2章 ネオトルーパーズ

第39話 東と陽助①

 目が覚めた洸太は自分がとある部屋のベッドの上にいることに気付いた。周りを見渡し、殺風景な内装を見るにこの部屋はどこかの病室であることが分かった。


 右手首に違和感を覚えたので何だろうと気になって見てみると黒いリストバンドが装着されている。いつの間に付けられたのだろうか、そして何故自分はここにいるんだと戸惑っていた時、丁度病室のドアが開いて誰かが入ってきた。


「ん、おっ、やっと目を覚ましたみたいだね。おはよう」


「ど、どうも……あの、ここは?」


「ここはネオテック日本支部の研究施設だ」


「ネオテック? そうだ、僕は……」


「まあ、取りあえず水を飲みなよ。喉乾いたでしょ」と東が持っているペットボトルの水を渡し、洸太はそれを手に取って飲み干した。


「君は不良どもに集団暴行を受けたところを俺達が助けてここに運んだんだ」


「そうですか。でもどうして警察じゃなくてここ何ですか?」


「警察に引き渡したら色々と面倒だし都合が悪いからね。でも警察よりは安全で安心できる場所であることは保証するよ」


「ああ、そうですか。すみません」他にも様々な疑問が浮かんだが、記憶を辿るうちに答えが分かった気がする。もしこのまま警察のお世話になればその先に待ち受けるのは厳しい尋問であることは明白だと刹那に理解できた。しかし、だからと言ってここに運び込まれる理由にはならず、心の中で悶々とする。


「礼はいらないよ。確か、光山洸汰だっけ?」


「はい。でもそれは里親に使わせてもらった苗字で、本当の苗字は分かりません」刹那的に里親のことを思い出し、洸太は俯いて答える。


「そんな込み入った事情があったとは。じゃあ何て呼べばいい? いきなり名前で呼んだら馴れ馴れしいからさ」


「どう呼んでもらっても構いません。もう、気にしてませんから」


「そうか。じゃあ光山と呼ばせてもらうよ。そういえば自己紹介がまだだったね。俺は東漣でこっちは倉本陽助」


「よろしくな。とにかく助かって良かったよ。やり返したいならいつでも言ってくれ。俺がお前の分まで昨日のあいつらをぶっ飛ばしてやるからさ」


「お前が相手じゃ死んでしまうからやめておけ」


「殺しはしない。半殺しにはする」


「ハハハ。とまあ、いつもこんな感じのノリだからそんなにかしこまらなくていいよ。気にせずフランクに接してくれ」


「う、うん」二人の独特のノリについていけず、気まずそうに相槌を打つ。


「では早速本題に入るが、どうして君が不良たちに絡まれるようになったのか。その経緯を詳しく教えてもらえないかな」そう言われて洸太は渓流の時の記憶を呼び覚まし、急に俯いて暗い表情を浮かべる。


「どうした? 何かあったのか」


「ある友人を、養沢川沿いにある人知れない渓谷に誘いだして、集団リンチを……」


「それで、お前はその友人に暴行を加えたのか」


「いや、誘っただけ。その後の一部始終は森の茂みから覗いて傍観してた。でも、まさかあんなことになるなんて……」


「集団リンチって言ってたけど、その不良たちはお前の友人に具体的に何をしたの?」


「金属バットや鉄棒とかで滅多打ちにした後、崖から突き落として……」


「谷底の川に落ちたという訳だな」と言った途端陽助に視線を移し、指示を出すようにゆっくり頷き、それを受けて陽助は病室を出ていった。洸太は二人の何のやり取りなのだろうと気になって不思議そうに見る。


「無事だと良いな」


「生きていれば、だけど……」


「そうだね。まあ『そもそもどうしてそんなことを』と訊いても『そこまでするとは思わなかった』と返答されそうだから一応訊かないでおくけど、それでも予想出来ていたんじゃあないかな。こうなってしまうことを。見るからに賢そうだし」


「し、仕方なかったんだ……そうしないとお母さんが……そうだ」


「どうした」

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