第38話 結託②

 一呼吸置いて続けた。雅人はじっと見つめて傾聴する。


「いざ身を投げようとした時、見知らぬ男が現れて話しかけられたんだ。『あなたが今まで生きてきた人生は、死に値するものなのか。もし君がこの世からいなくなっても、あいつらはいずれ僕のことを忘れて悠々自適に暮らすだろう。それでも自殺するつもりか?』ってね。


そう考えたときに、押し殺した筈の怒りが沸々と湧いてきて、許せないって強く思うようになったんだ。そしてその男は『あなたの力になりたい』の一言に勇気づけられてお前と同じ能力を手に入れた。もう一度目標を持って生きようと思った。僕の人生を狂わせた奴ら全員に復讐するという人生最後の目標をね。こうして生き延びることが出来たのも、あの人のお蔭さ」


「命の恩人ってわけか。俺と同じって、お前も念力を使えるようになったのか? その男って誰? どういう人なの」


「変わった風貌に変わった名前をしていて一見不気味な雰囲気をしていたけど、とても親切で頼りになる人だよ。この廃病院を教えてくれたのもその人さ。必要な物資も食糧も提供してくれたし。まあ、生活は以前よりちょっと不自由になってしまったけどね。あとは一人でどうにかするしかない」


「そうか。じゃあ俺がいなくても何とかやっていけているわけだね」


「お前はよくやったよ。寧ろ、お前をこんなことに巻き込んでしまったことに申し訳なさを感じているし後悔もしている。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないから」


「差し違えてでも?」


「ああ、やるつもりだ」

 

 その一言に相当な覚悟が込められていることを感じ取った雅人はそれ以上何も言わなかった。二人は暫く黙り込んでお互いに目を合わせまいと俯く。気まずい沈黙を破るように雅人はベッドから降りて床に正座した。


「いきなりどうした」


「ごめん! あの時、俺の念力がまだ弱かった所為でお前が止めを刺すことになって、だからこんなことに……ずっと謝りたいと思ってた。お前が死んだと聞いた時、俺の念力がもっと強かったら……と後悔したんだ。だからこうして……」


「ああ、その件ならもう気にしてないよ。寧ろ謝りたいのはこっちの方さ。お前にあんなことを依頼した僕が馬鹿だったんだ。最初から僕一人でやっていればお前も巻き込まれずに済んだのに。だから気に病まないでくれよ」


 気遣ってくれる浩紀に返す言葉も見つからない雅人。そのまま二人は黙り込んで気まずい空気が流れる。


「なあ岡部、考えたんだけど……やっぱり、俺も手伝っていいか? お前が失踪したと聞いて俺は自警団として弱い者いじめを繰り返すあいつらを潰すために躍起になったんだから」


「僕なんかのために骨を折らないでくれよ。さっきバットで殴られたって言ってたよね。奴らはもうただのチンピラじゃない。半グレ集団だ」


「でも一人じゃ多勢に無勢だし、無謀すぎる。加えて、お前の人生を狂わせてしまった責任もあるし、二人でやればさだめし上手くいくさ」


「だけど……」不安そうに吐露する浩紀に雅人はニヤリと笑う。


「お前を陥れた連中の名前と住所は教えられる。でも一人厄介な奴が一人いて、そいつは街の監視カメラをハッキングしたり、映像を編集して見せることで人の弱みを握ってお金をせびる腹黒い奴だ」


「なるほど、それはとっておきの情報だな」


「そいつを排除出来れば城崎の牙城を崩せるかもしれないと俺は考えてるんだ。それと、俺は父さんの仇も討ちたい。だから俺も協力させてくれ、頼む!」


「……仕方ないな。お前がいれば百人力だ。ただし、協力する以上は覚悟を持たないといけない。それなりの犠牲も伴うだろう。それだけは肝に銘じてくれ。いいな?」


「分かったよ」

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