第30話 復讐と服従③
「な、何だよこれ……」今起きている奇妙な現象を前に洸太はただただ茫然とする。
「恍けるな。お前も同じ力を持っているだろ」
「えっ」
「驚いたぞ。俺と同じような力を手に入れた人がもう一人いて、それがお前だったなんてな。人生ってのはこういう摩訶不思議な出来事が起きるもんだな」
「違う……僕は」雅人が何を話しているのか瞬時に理解できたが、認めたくはなかった。その気持ちを表すかのように怯えながら後ずさりする。洸太が一歩引く度、雅人が一歩近づいて距離を縮めようとする。
「何が違うんだ。言ってみろよ」
「お前はその力を使って、自分の気に入らない奴を片っ端から懲らしめてるだろ。そんなのあいつらと同じじゃないか」
「おいおい、一緒な訳ないだろ。人聞きの悪いこと言うなよ。俺は飽くまで岡部の敵討ちをしてるだけだって」
「それはお前の自己満足だ!」
「とにかくお前の協力が必要なんだ。同じ力を持つお前と一緒なら、あいつらなんて簡単に蹴散らせるさ」
「やっぱり無理だ。協力出来ない」
「そうやって尻込みするのか。俺たちは天に選ばれてこの力を授かったんだ。何を怖がる必要がある」
「そうだよ、怖いよ。いつこの力を制御出来ずに暴走して見知らぬ人に迷惑をかけるのかって思うと夜もろくに眠れないんだよ。僕はただ普通の高校生として生活したかっただけなのに何なんだよ」
「それはお前が力の使い方を知らないだけだ。俺と組めば、とことんレクチャーしてやるよ。だから」
「頼むから、もう放っといてくれ!」と差し出された雅人の手を拒絶するように念力が洸太の意志に反応して放出された。
「お前は昔からそうだったもんあ。いつもビクビクしているだけで、そうやってウジウジしてるから嘗められるんだよ」
「人に迷惑をかけるぐらいなら嘗められた方が良い。それに僕は受験生だ。お前と違ってやるべきことが沢山あるんだ」
「少しは理解を示してくれると期待してたのに、とんだ腰抜け野郎に落ちぶれたもんだな。見損なったぞ」
「お前こそ、少しは自分の身分を弁えて世間に目を向けるべきだ。いい加減大人になれ」と吐き捨てて踵を返し、歩き出す洸太だった。
「フン、何とでも言えよ。元々俺一人でやっていくつもりだったし。だがな、これだけはよく覚えておけ。お前と俺は特殊な力を持った者同士だ。お前がいくら一般人を取り繕ったところで俺と同類であることに変わりない。
俺に付いていけば良かったと後で後悔することになる。そうなったらもう手遅れだからな」と追いかけようとせず、遠くなっていく洸太の背中に語り掛ける雅人。
「この腑抜けがぁああああ!」と洸太に向かって力強く叫び、それを聞いた洸太は刹那的に歩みを止めて彼の放った言葉を呑み込む。雅人の想いが全てその一言に集約されていると感じ取った。それでも洸太は振り返ることなくゆっくりと歩き出していった。
こうして洸太は雅人と袂を分かつことになった。この後雅人がどうなろうと知ったことではなかった。
公園を後にし、二つ先の路地を右に曲がろうとしたところで誰かに声を掛けられた。
「おーい、待ちなよ」
声の主が誰なのか瞬間的に分かった。その瞬間洸太の身が硬直するも、呼ばれたからには振り向かざるを得ないと思い、後ろへゆっくり振り向く。
「また会ったね、光山。何してるのこんなところで」と、壁に寄りかかって意味深な表情で見ている城崎が言った。
「ちょっと友達と話していただけだよ。じゃあ急いでるから」それを聞いた洸太は何か嫌な予感がしたので慌てて帰ろうとしたその時、「俺さ、聞こえちゃったんだよね、お前たちの会話が」と城崎が言うと、洸太は「えっ」と漏らして動きを止めた。
「夜な夜な俺たちの邪魔をしてきたコウモリって、あいつのことだったんだ。なるほどね」
それを聞いた洸太が愕然とした。自分と雅人の二人だけの秘密の会話が、最も聞かれてほしくない人に聞かれてしまうなんて夢にも思わなかったからだった。
「ねえ、ここで一つ俺と取引しようよ」城崎が続けざまに提案する。
「……取引?」
「そう。君の友人の名前を言う代わりに君の模試の結果とアルバイトに目を瞑ってやる」その取引の内容を聞いて洸太の心臓の鼓動が速まった。
「君の今の置かれている立場を考えれば論を待たないだろう?」と城崎が不敵に嗤いながら洸太が直面している状況をダシに更に煽り、洸太は唾を飲みこむ。黒目が寒さに震える子供のように泳いでおり、額から汗が流れ出る。
この時洸太は運命を左右する究極の選択を迫られることになる。
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