第25話 スクールカースト一軍会議②
「えっ、どういうこと?」
「あんまり記憶に無いけど、どうやら俺は生まれた時に心肺機能が弱かったらしくて、それで緊急手術を受けることになって、何とか一命を取り留めたんだ。その話をお母さんから聞いた時俺は思ったんだ。これはきっと、神から与えられた啓示だ。まだ死ぬには早すぎるってね」
城崎が衝撃の体験談を突如語り始めたことに平沼と楠本は真剣に聞いていた。茜はスマホをいじっていたが、時折手を止めて耳を傾けていた。城崎が次の缶チューハイを開けてゴクリと飲んでから話を続ける。
「だから、色んな偶然が重なったお蔭で俺はこうして人生を楽しく送っている。親や周りの援助によって手にしたチャンスを、今まで以上に余すことなく全力で思う存分楽しむことにしてるのさ」
「うわあ、なんか凄え話聞いちゃったなあ。何でそんなこと黙ってたんだよ」
「だって話したってしょうがなくない? 空気だって重くなったでしょ。こういう話した後ってどう取り繕えば良いのか分かんないし」
「まあ、あたしは前から知ってたけどね」
「えっ、そうなの?」と自然と会話に入って来た茜に平沼が目を丸くして驚いた。
「うん。この前二人で料理してる時に誤って包丁で指を切っちゃって、血が出てるのに痛みが全くないって言うからどうして? って聞いたらそういう話になっちゃったって感じ」
「マジかよ。彼女にだけ話して俺らには隠すってそりゃないぜ。しかもしれっとイチャイチャエピソードを挟んで俺達愛し合ってますよアピールしてマウント取るっていうね。本当食えない奴らだなあ」と嫌味っぽく言って不快感を露わにした。
「で、話って何なの? 来週のデートのこと?」と茜が強引に話題を変えて食い気味に訊く。
「あっそうそう。実はアメリカに行く予定と被っちゃってさ」と城崎がしれっと報告した。
「えっ、アメリカ!?」と目を見開いて驚愕した。あまりの衝撃に反射的に身を引く。
「早速明後日から行くことになったんだ」
「へえ、何しにアメリカに行くんだよ」と平沼が話に割って入ってすかさず聞いてきた。
「高校卒業したら進学する大学の見学と体験入学だ。それと旅行だね」
「おい、お前こんなときに旅行とかふざけんなよ。俺らも連れてけよ」
「今度な。その代わりアメリカのお土産沢山持って帰るから」
「いいなあ、学校一の金持ちっていうのは余裕があって。俺達と格が違うよな樹」と隣にいた楠本に話しかけたが、楠本は「そうだね」とパソコンをいじりながら素っ気なく言う。話しかけるなと言わんばかりの集中力でキーボードを忙しなく打ってゲームしていた。
「で、いつ日本に帰って来るの?」と茜が平沼たちの話を遮って本題に戻して聞いた。
「三週間はあっちにいるからなあ」
「そんなに長くいるの? 何それ、うちらのデートと丁度被っちゃうじゃん」
「だからごめん、デートはまた違う日で」
「そんな……うちらのデートってそれより前もって決めたことでしょ。折角楽しみにしてたのに。なんとかずらせないの?」とどうしても欲しい玩具を買ってほしいとせがむ子供のように不服そうに言う。
「それは分かってるよ。でも向こうがどうしてもその期間しか空けられないって言ってきたんだ。担任と校長にも話は通して了解を得てる。何より、忙しいのにわざわざ俺の為に時間を作ってくれるだけでもありがたいのに文句なんてとんでもないだろ」
「だからって納得できるわけないじゃない」
「急に決まったことだし仕方ないだろ。こうして謝ったんだし、もう諦めてくれ。だいたい何だよ公園でデートしようとか。絶対つまんないよ」と言って缶チューハイを飲み干した。
「たまには公園でまったりするのも良いかなって思ったから。今までだって高級レストランで食事とかリムジンに乗って東京中を回るとかそういった贅沢なデートばっかりで一回もそういうシンプルで青春らしいデートしたことないし」
「そんなのいつでも出来るよ。公園に着いて五分で飽きるわ。そんな地味なデートより銀座にある高級レストランでランチでもしようぜ。そっちの方が何倍も有意義に過ごせるし」スマホの画面を見ながら言うと、それを聞いた茜はもどかしそうにそっぽを向いた。彼氏に対する失望からなのか、両目は涙を浮かべている。
「ごめんって。隠してた俺が悪かった。どう打ち明ければ良いのか分からなくてさ。サプライズのつもりで言ったんだけど」そんな茜を見て即座に平謝りする城崎。
「何がサプライズなの? こんな時にふざけないでよ。もういい!」
「えっ、帰るの? 泊まるって言ってたじゃん」鞄を持ってたまらず部屋を出ようとする茜にベッドに座ったまま声をかけて止めようとする城崎。
「もう知らない、帰る!」と怒気を込めて吐き捨てるように言って、部屋から飛び出してドアをバタンと勢いよく閉めた。城崎たちは茜の突然の行動にただただ茫然としていた。
「俺今何か悪いことでも言ったか?」
「そんなことないと思うけどね」
「何今の。たかが三週間日本を離れただけでギャーギャー喚くなっつうの」
「さすがに俺でもガッカリするけどな」
「たった三週間だぜ。アホみたいにボケッと待ってりゃあっという間に経つよ」
「でか、あいつ帰ったけど良いの?」
「いいよ、そのうち熱が冷めるから。あいつも馬鹿じゃないし、きっと分かってくれるさ」と開き直って三本目の缶チューハイを開けて飲んだ。
「やっぱリア充って面倒臭ぇなあ。喧嘩とかするしよお。なあ、樹」と楠本に同情を求めたが、楠本はパソコンのキーボードをカチャカチャ打ちながら「そうだね」と空返事するだけだった。
「そんなことより、今月の集計結果を発表してもらおうぜ」
「は~い」と楠本が怠そうに言い、ゲームを中断して集計表を表示する。
「では発表します。まず真が八万円、誠一が七万円で真の勝ち」
「よっしゃあ! 今回も俺の勝ちだな!」
「は? ふざけんなよ。おい樹、何かの間違いじゃあないのか? ちゃんと計算したんだろうな」
「三回読み返かえしたけど、真が最高で間違いないよ。十一回連続一位おめでとう」
それを聞いて城崎が大袈裟にガッツポーズをして達成感を露わにし、またも敗北してしまった平沼を指差して嘲笑った。
「畜生、今度こそ勝てると思っていたのに。お前、絶対贔屓してるだろ」
「まさか。真の言うように、コミュ力の問題じゃないの?」
「フン、要はプレゼン力さ。これでもう懲りただろ。力と頭じゃ勝負にならないって」
「なんてこった、最悪! それもこれも全部あのコウモリとか言うゴロツキの所為だ。ヒーロー気取りやがって。あいつの邪魔が無ければこれまで通り順調にカツアゲやオヤジ狩り出来たのによ。あー、思い出したら段々ムカついてきたな」
コウモリと呼ばれているその男とは、全身を黒服に身を包んで闇に紛れて行動し、闇夜に悪事を働く者達を成敗する自警団。壁や塀の上を縦横無尽に動き回り、予測不能の動きを見せて相手を惑わすことからコウモリと呼ばれるようになった。
「確かに言えてるな。俺も今回の売上高には満足していない。先月より二倍は稼げた筈だ。あいつの正体さえ掴むことが出来ればいいけど」
「町の至る所にある監視カメラにも引っかからないし、意外と手間取りそうだよ。このままだとこっちが不利になるね」
「そのうち殺されるかもしれないな」
「そうなる前に早く始末すりゃいいだけの話だ」
「樹、学校にいる生徒や職員全員に怪しい動きは?」
「今のところ変わった様子はないよ」
「じゃあ、退学した生徒や異動した先生も監視対象にしよう。それから、自殺した岡部の家族とその関係者達もだ」
「岡部? 何か関係あるのかよ」
「あいつが姿を現すようになったのは岡部が自殺してから間もない。一応念のためだけど」
「まあ、今度からグループで動くことに徹しよう。数で圧倒すれば勝てるぜ。それよりさ、最近退屈過ぎてストレス溜まってるから今度どこかでパーっと羽を伸ばすのはどうかな。旅行とかさ」
「それならクルーザー乗りながらランチでもどう?」
「クルーザー?」
「偶然ネットの広告を見て気になってたんだ。今度乗ってみたいなあと思って。で、有名なのがこれ」と持っていたパソコンの画面を二人に見せた。
「クルージングかあ。どうせやるなら貸し切ってド派手にパーティ開いた方が良くない?」
「良いね、その方が絶対盛り上がるな! やろう、やろう!」
「じゃあ俺がアメリカから帰った後にやろう」
「よし、そうと決まれば酒飲もうぜ!」と高らかに叫び、お酒を飲み交わして喜びを分かち合う。その後、彼らは朝方までゲームをして遊び呆けたり、映画を見たりして楽しんだ。
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