第24話 スクールカースト一軍会議①

 世田谷区にある閑静な高級住宅街で平沼、楠本、茜の三人は学校が終わって城崎の自宅に向かっていた。茜は彼氏である城崎に会いたいと興奮しているからなのか、軽やかな足取りとなっており、そんな茜の後ろに付いて歩いていく平沼と楠本だった。


「それにしても市宮、お前の万引きよくバレなかったな」


「うん、慣れてるから。今回はスマホのカメラを回さなきゃいけなかったからちょっと緊張したけどね」


「末恐ろしいな。別の意味で尊敬するわ」


「真のためならこんなのへっちゃらだもん。数秒ぐらいの動画だったから編集簡単だったでしょ?」


「うん。所要時間は十五分ぐらいだったかな。よっぽどのことが無い限りフェイクだと怪しまれることはない」


「なあ樹、お前も試しにやってみたら? そのハッキング能力とパソコンのスキルがあれば一攫千金してあっという間に億万長者だぜ」平沼が隣で歩いている楠本に向かって面白がって促した。


「僕、お金に興味ないんだよね」とスマホを見ていたままどうでも良いという風に返す。


「それ人生損してんじゃん。勿体ないなあ。そういうのを才能の無駄遣いって言うんだぜ」


「いや、使いどころが分からないというか。僕はこの能力を活かした遊びが出来ればそれでいいかなって。あと僕の家ボンボンだし」


「あーはいはい。金持ちだもんなお前のところ」嫌味っぽく愚痴を零す。


「嫉妬してるの?」と楠本がからかうように訊ねると、「うるせえ、やかましいんだよ」とあしらった。

 

 すると、三人の横を自転車に乗っている男女二人組が通り過ぎていく。女性がはにかんで後ろの荷台に座って漕いでいる男性の腰に手を回して振り落とされないようにガシッと掴まっている。二人の様子からしてカップルだと見抜いた平沼は憎たらしい視線で小さくなっていく二人の姿を見続けた。


「なんかさ、やっぱリア充ってキモいよな」と隣で歩いている楠本にふと話しかけた。


「うん。全員爆発すれば良いと思う」


「それ、あたしと真のこと軽くディスってるよね」と二人の前を歩いていた茜が振り向いて指摘する。


「別にピンポイントでお前らのことを指して言ってるわけじゃねえよ」若干慌てた様子ではぐらかそうとした。


「いや、こっちの捉え方の問題だから。あのさ、もうちょっと場所と時間を考えて言った方が良いよ。それと、そうやって卑屈になって文句や嫌味をいちいち口に出すから誰も寄って来なくなってまたひねくれて文句を垂れる。


そうやってネガティブの無限ループから抜け出せずにいるから女子を遠ざけていつまで経っても彼女が出来ないんじゃないの? もしかして自覚してないとか?」と平沼を追及して今までの鬱憤をぶつけるように論った。


「うわあ、さすが市宮さん。言うことが違うねえ」と聞いていた楠本が茜を褒める。


「それぐらい言われなくたって分かってるさ。でもいねえんだよ周りには。はあ、俺達天下の一軍なのに何で彼女の一人も出来やしないんだよ」と平沼が茜に鋭く指摘されて露骨に肩を落とす。


「本気で彼女作りたいんだったら、先ずそのへそ曲がりな性格を直すところから始めないとね。愚痴や文句は零さないことかな」


「んなもん出来たら苦労しねえよ。ていうかそこまで言うんだったら一人ぐらい紹介してくれよ」


「ごめん、あたしの友達皆彼氏いるんだ。彼女ぐらい自分で探せば? だからこうしてアドバイスしてるじゃん」


「あー、やっぱそうなるじゃねえかよ」と不貞腐れていると、「もう着いたよ」と茜が家全体を白で塗った豪邸を見て言った。

 

 城崎の自宅は最寄りの田園調布駅から徒歩で二十分ほど離れたところにある閑静な高級住宅街の一等地に構えていた。その姿はまるでホテルと高級旅館を合体させ、更に最新技術でよりハイレベルで近未来的な設計に昇華させた造りで高級感に満ち満ちており、ひっそり佇んでいるように見えるも、一流の建築士に依頼して建てられた黒を基調としたその斬新なデザインは、訪れた者達にその強烈な存在感を与えて見る者を引き込ませる。

 

 さすがは上級国民だけあって自己顕示欲がとても強く表れているなと感じて、敷居が高すぎて入るのも躊躇してしまう。茜は城崎と書かれてある表札のすぐ下にあったインターフォンのボタンを押した。


 インターフォンに付いている小型カメラに茜が元気いっぱいに手を振る。三人の姿が確認できたのか、鉄製の門の鍵が開錠されて自動で開いて茜たちは開いた門をくぐっていった。

 

 城崎俊が三十畳もある途轍もなく広いリビングのソファで寛いでテレビを見ながらスマホをいじっていた。城崎の座っている高級感のある白色の革製のソファの前にはガラスのローテーブルと、それを囲むように同じ一人掛け用のソファが五台置いてあった。天井にはゴージャスなシャンデリアが飾られており、壁沿いには絨毯の敷かれた階段が二階へと続いている。


 まさに絵に描いたような富裕層の住む豪邸だった。喉が渇き、一旦スマホを手放して傍に置いてあった缶チューハイを飲み干す。その時、ピンポンの音がして玄関に行き、ロックを解除してドアを開いて三人を招き入れた。


「お邪魔しまあす」


「おー、ようこそ、我が神聖なる要塞へ」


「そういう中二病的な発言求めてないから。嫌われるよ」


「ちょっと言ってみたかっただけさ」


 大理石で出来た広い玄関で靴を脱いだ三人は城崎に連れられてリビングに向かった。リビングの平沼、楠本、茜の三人はさも自分の家であるかのようにそれぞれのソファに腰かける。


「はい、あげる」と茜が据わるやいなや鞄からピンク色の小袋を取り出して城崎に渡した。


「おっ、何これ」


「クッキー作ったの。真に一番に食べてほしくて」と茜が鞄から取り出した可愛らしいカラフルな小包を喜色満面の笑顔を作って差し出す。


「へー、わざわざ作ってきてくれたのか」と中からチョコレートでコーティングされたクッキーを一個手に取って食べる。茜はその様子を茜は目を輝かせながら見ていた。


「味はどう?」


「うん、美味しいよ」とその後も次々とクッキーを口に運ぶ。


「良かったあ。初めて作ったから不味かったらどうしようかなと思って」と情感的に言う。


「大丈夫だよ。茜の作る料理は全部美味しいから」と不安がる茜に優しい言葉で褒める。


「フフ、ありがと」と思わずときめく。


「手作りクッキーとか良いなあ。俺達にもくれよ」二人のカップルらしい幸せなムードに水を差すように平沼が割って入って来た。


「これは私が真の為にサプライズで作ったの。だからあんたたちは食べちゃ駄目」と茜が平沼を制する。


「いいじゃん一個ぐらい。それとも俺と樹の分も作ってくれてるとか?」


「無いに決まってるでしょ」と無表情になり、突き放すように冷たく返す。


「なんだよ、ケチだな。何かムカつくな」


「そんなことより、ちゃんと頼んだもの買ってきた? 喉が渇きすぎて脱水症状になってしまいそうだよ」


「はい、どうぞ。ていうかもう飲んだの? 親にバレても知らないからな」


「心配ないよ。お母さんはいつだって俺の味方だし、これぐらいのことは目を瞑ってくれるから」

 

 下げていた袋の中から缶チューハイを取り出した。サンキューと言って蓋を開けてごくごくと一気に飲み干す。


「あ~、これがないと始まらないなあ」とスッキリした表情で爽やかに言う。


「おい、落ち着けって。飲むペース速えよ」


「いたって普通だけど」


「何しろ急性アルコール中毒で倒れたりすんなよ。マジで洒落にならねえから」


「心配すんな。毎日のようにガンガン飲んでるけど一度もなったことないから。お酒はほどほどにって言うけど、別にって感じだね」


「そんなに酒好きなんだな」


「酒だけじゃないよ。俺は好きなことに対して全力で楽しむって決めてるんだ。勉強でも遊びでもお金を稼ぐのでも何でもね」


「凄えな。どこからそのエネルギーが湧いてくるんだよ」


「お前らも俺と同じように生死を彷徨うような大きな出来事に遭えば嫌でも気が変わるさ」

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