第二章

魔王城へ

目が覚めた。 どこかのベッドの上


「夜月!!やっと…やっと起きたー!」

「おはよ。日向。」


あれ…起き上がれない…痛い………


「あー。動かさない方が良いよ。ひどいけがだから。」

「どーりで…。」

「問題!夜月は何日寝てたでしょーか!」


え?こういうのって、何日も寝ていて驚くのがお約束だと思う…


「5日?」

「違うよ〜。」

「って分かるかー!」

「正解は、1日も経ってない。でしたー!」

「意外な展開…」

「残念だったね〜。」

「ぐぬぬ……」


でも、


「ありがとう。日向」


たったその言葉だけでも、思いは伝わる。


「どういたしまして」


――ある場所の、ある時間での出来事――


「そうか…また全滅か…。」

「はい。」

「そうか…あいつらがやったのか?」

「その通りでございます。魔王様。」


          ・ ・ ・


2週間後。私のけがは治った。王様は、結界を壊したのは魔王の仕業だと言った。魔王の封印が何者かに解かれ、復活したのだ。と。もしかしたら、その魔王を倒せば――。


5日後。準備を完了させ、出発。今度は、魔王を探し、倒す旅に。大変だけど、頑張らなければいけない。


5ヶ月後。今まで進まなかった事態が急変した。 あの…夢を…一色の夢をみた。


でも、今回はすぐに起きることができた。もし、魔法によるものならば――!


「ま…まさか…。いや… ありえない…ありえない!」

「誰!?」

「気づいたか…。我は魔王と呼ばれる存在。我を倒したいか?」

「っ…」


私たちにとって、こいつは悪の存在だ。でも、 向こうから見たら?仲間をたくさん倒される悪の存在。だから…


「ふ、そうか。我を探すならば、この地図を渡そうではないか。次なる場所が表示される地図だ。」

「分かった。いずれ、あなたのもとへ行けるなら。もらうよ。」

「楽しみに待っている。」


消えた?って、普通はこんなの渡してくれないよね?それも魔王が!?ゲームの展開でもこんなのみたことないよ!何が目的なのかな?この場所に向かえば、何か、分かるかな?


朝。皆に話した。


「この場所に向かってみるか。」


私達6人は、歩きだした。




遠い…これで7日だよ?地図ではすごく近くにある感じなのに…


2日後。やっと着いた。屋敷…ポツンと一軒のみ建っている。扉が開いた…


「あなたたちね!昼と夜の魔法を使う人っていうのは!」


女の子がでてきた。


「そうだけど…君は?」

「私は春三。付いてきて。」


廊下には何も無い。


ある部屋に着いた。


「座って座って〜。」


座る。ソファーのようだ。


「本題に入るよ。私は、普通の人にはない能力、異能力を持ってるの!」

「異能力…?」

「普通の人は、魔法か異能力、どちらか一つしか使えないよ。なのに、君達3人は、異能力を持ってるみたいだね。」

「え……?」

「私は、誰かの異能力を調べることができる。早速調べてみるね。」

ただこっちを見るだけで、調べれるらしい。

「ふーん。なるほどね。君は、『異能力無効化』だね。」

「異能力…無効化…」

「君は〜」


日向のこと。


「『魔法強化』だね!」

「魔法が…もっと…強くなる…」

「最後!」


氷水…


「君は〜、『武器強化』だね!」

「魔法で強くなった剣がもっと強くなるのか…」

「君達3人は〜、唯一無二の魔法を持っていて〜、異能力も持っている!ありえないね!」

「すごいね。」

「それじゃあ、次の場所に向かってね。」

「ありがとう!」

「皆〜。またね〜。」


えっと…次は…あ…遠い…。頑張って進もう。


20日後。やっと着いた。男の人が出てきた。


「よく来たな。俺は夏四。お前らにはここで剣の腕をみがいもらう。」


「剣!?」


大丈夫かな…独学だし…この人強そうだし…。


「大丈夫だよ。」


日向…


「ありがとう。」




まずは、剣の腕調べから。指名されていく。


最初は火蹴。弱点を教えてもらう。


「お前は反応速度が遅い。これで速くなってもらう。」


…自動で剣が振り下ろされる機械だ〜。



次…草香。


「お前は一撃が弱い。これを叩いていろ。ある程度の強さになったら自動で折れるからな。」



次…流海


「…弱すぎる…2つともやれ。頑張るが良い。」




次…氷水


「素晴らしい。申し分ない強さだ。」




次…日向


「十分強い。」




最後…私。不安だな…見ている限りでは、とても速かった………あれ?遅くなった?変なの〜。攻撃を避けて、ここ!


「な…なん…だと…。完璧だ…。お前ら3人には教えることはない。」


「え…」

「頑張りたまえ。」




さて…どうしよう…


「異能力の特訓をしようよ。」

「良いね!」


私達は、外に出た。


「えっと、異能力の発動は、能力名を唱えるんだっけ。」

「そうだな。」

「私は常時発動みたい。」

「ふ〜ん……って、あれ?もしかしてだけど、夜月に私達の異能力、無効化されちゃうんじゃ…?」

「あ…確かに。」

「それじゃあ一回、夜月に発動してみよう。」

「分かった。『反弱日術はんじゃくひじゅつ』」

「…何も変わらないな。」

「ここに来る途中、使った事があった。効果は、魔法の攻撃力増加と、効果持続時間の延長、そして、マナが増加する。」


いつの間に確認してたんだ…


「夜月、マナの最大値は?」

「えっと…今は…確か……4250万だったはず。」

「増えてる?」

「いいや、増えてない。」


…無効化されちゃうんだ…残念だなぁ…。


「…これから頑張ろ?」

「うん。」




――ある場所の、ある時間での出来事――


「魔王様。3人の異能力が分かりました。 『異能力無効化』『魔法強化』『武器強化』です。」


「詳細は?」

「分かりません。」

「そうか…あいつに伝えなければ…」

「お呼びでしょうか。」

「相変わらず速いな。」

「『時間操作』で移動は速いので。」

「わかってる。3人の異能力……」

「なるほど。だから負けたのか……。ありがとうございます。では。」


         ・ ・ ・


…私は、どうして夏四さんに勝てたのだろう…?


「ねえ、夏四さんって、素早い動きだったよね?」

「うん。とても速かった。」

「…だよね…」


私は…遅く感じた…速く、なかった。


「…もしかして…夏四さんも…異能力者?」

「え?」

「あの人、私との勝負のとき、遅かった。」

「…自分の動きを速くする異能力なら、辻褄が合うな。」

「なるほどね。」


強い異能力だなぁ。


      ・ ・ ・


1ヶ月後。全員の修行が終わった。


「よく頑張ったな。次の場所に向かうといい。」

「ありがとうございました!」



私達は、歩き始めた。次の場所に向かって。


道中、話す。


「ねえ、夜月達は、1ヶ月間、何をしていたの?」

「異能力の強化をね。」

「なるほど。前に異能力名どうしようって言ってたな。」

「確か…夜月が『奪月だつげつ』、日向が『反弱日術はんじゃくひじゅつ』、氷水が『氷彗強刃ひょうせいきょうば』だったな。」

「合ってる。」

「私達の異能力、夜月に無効化されちゃってね。」

「ええ!?大変じゃん!」

「毎日、異能力を使ってね。」

「私達の異能力は夜月に無効化されなくなったの!」

「異能力も学習するんだね〜。」

「お〜。」

「どれくらいかかったの?」

「昨日、やっと終わった。」

「昨日!?」

「大変だったね。」

「うん。」

「話変えるけど、次はどこへ?」

「ここ。」

「遠いな。」

「また頑張ろう!」


・・・


10日後。目的地…ではないが、町に着いた。

町で、休憩することに。門をくぐる…前に、呼び止められた。

「あの…」

「はい?」

「ああ!やっぱり!皆さん!」

「どこかでお会いしました?」

「王に伝言をさせていただいた者です。」

「あ〜。あのモンスター襲撃のときの!」

「そうです!それで、今回は王から伝言を預かっています。」

「なんですか?」

「あなた達に会いたいそうです。家で待ってると仰っていました。」

「そうですか。ありがとうございます。」

というわけで、王様に会う。

「おー!よく来てくれた。」

「どうも。」

「ここに呼んだのは、新たな本を発見したからなのじゃ!」

「新たな本?」

「何の本です?」

「これじゃ。えーっと、確か、昼と夜の魔法について。と、書かれていたはず…あれ?読めない…『古語読解』!…あれ?」

「それ…異能力…ですよね…」

「夜月殿。読めるかの?」

いやいやいや、読めません読めません!

「読めま………あれ?読める……」

「え??夜月の異能力は『異能力無効化』だったはずじゃ…!」

「夜月殿。もしかしたら、『異能力無効化』だけでなく、『略奪』の異能力も持っているかもしれないぞ。」

「『略奪』…」

「その名の通り、相手の異能力を奪う能力だが、残念なことに、相手の異能力は、残り続ける。自分にしか得がない異能力じゃ。」

『異能力無効化』は自分達に利益が、相手に不利益が生じて、『略奪』は自分だけに利益が生じる…お得で強すぎない?

「それで、その本にはなんて書いているんだ?」

「ちょっと!火蹴!」

「大丈夫。えっと…『昼と夜の魔法は、全ての魔法が使える。ただし、昼は夜が、夜は昼が使えない。』だって。」

「え…強すぎない?」

「もはやチートだな。」

「チートって?」

「ずるいって感じだっけ?私達の世界の言葉。」

「ふ~ん。」

「魔法、習得したほうが良いよね?」

「そうだな。」

「そうじゃ。夜月殿。すまんがこれも読んくれんか?実は、『古語読解』があっても読めないんじゃ。」

「だったら私に読めるはずが…………え??日向、氷水、来て。」

「こ…これは…」

「日本語…だね。」

「王様、これは、私達の世界の文字です…。今も使われているので、古語ではないんです。」

「なるほど…だから読めないんじゃな。」

ざっと目を通す。

「あ…ここ…」

「ん?」

「えっと…『えっと…何日だっけ?魔王を封印した。すると、周りのモンスターが全て消えた。魔王を封印したのに戻れない。いつになったら戻れるのか…。』」

「ちょっと待って。魔王が居なくなったら、モンスターが消えるの!?」

「もしかして…襲撃の時よりも前に魔王の封印が解かれていたってこと?」

「一体誰が封印を…」

「人間…しかいないよね…。」

「んなこと考えても意味ない。」

「そう…だね。流海の言う通りだね…考えても、分からないよね…。」

「魔法の習得、しよっか。」

「そうだね。」


・・・


1ヶ月後。

「よし。これで完璧!」

「疲れた…」

「多すぎるんだよ。これもあれもって言ってたから…。」

「仕方ないでしょ!お兄ちゃんも勧めてくるからこんなに多くなったんでしょ!?」

「悪かったって。」

「喧嘩はやめてよ〜。…今日、出発する?」

「ああ、そうだな。」

魔法の修得が終わったため、出発することに。

タイミング良く、草香が来た。

「やっほー。あ、終わったの?」

「うん。」

「出発するの?」

「うん。皆揃ったらね。」

「2人を呼んでくるね。」

「ありがと。草香。」

その後、流海と火蹴も来た。皆揃った。

「行こう。」


・・・


1ヶ月後。目的地に着いた。

「到着〜!」

「お城…?」

「怖い雰囲気だね…」

「お、看板だ。」

「えーっと…『魔王城』…だって…。」

「魔王城…」

「ついにここまで来たか…。」

「入ろう。ここが、最後だよ。」

城の中へ。


また看板が置いてある。

「えっと…『第1の部屋。モンスターを全て倒せ。』だって。」

「あの鉄格子のところから来そうだな。」

直後、鉄格子が上ヘあがり、モンスターが出てきた。

「おい…嘘だろ…」

「いくらなんでも、多すぎるよ…」

「この部屋が広い理由が分かったよ…。」

「ざっと……3000はいるな。」

「マジ…?」

「頑張ろ。」

夜月は、風魔法を使った。

windウインド cutterカッター

風の刃で、敵を切る魔法。名前の通りだ。

日向は、石の魔法を使った。

dangダング stoneストーン

落石を敵にぶつける。頭にぶつかるため、潰れる。

氷水は、氷の魔法を使う。

iceアイス fieldフィールド

氷の地面にし、敵を転ばせ、足止めする。

火蹴は火の魔法を使う。

fireファイア bowボウ

火の弓を作るだけの魔法。矢がないため使えない。

草香は草の魔法を使う。

leafリーフ edgeエッジ

草が鋭い刃になって飛んでく魔法。よく切れる。

流海は、水の魔法を使う。

healヒール waterウォーター

味方のマナの上限を上げ、全回復させる。自分のマナが回復量に応じて減る。

流海が言う。

「火蹴、草香。あれやろう。」

「分かってる。」

「そのためにこれを作ったんだからな。」

leafリーフ ballボール

waterウォーター ballボール

combineコンバイン!』

草が、水で成長するように、2つ魔法が合わさり、leafリーフ ballボールが大きくなる。

fireファイア ballボール

combineコンバイン!』

草が燃えるように、2つの魔法が合わさり、fireファイア ballボールが大きくなる。

fireファイア arrowsアロウズ

大きくなったfireファイア ballボールを矢に変換する。通常、2本しか作れないが、10本も作れるようになる。3人いるからできる、合体魔法。軌道上にいたモンスターは、例外なく塵と化す。

「うそ……」

私は目を疑った。いつの間にか作り出されていた合体魔法。ほとんどのモンスターが倒されてしまった。強い。

残ったモンスターを全て倒し、第1の部屋はクリア。次の部屋ヘ。

4人、立っていた。

「やぁ。皆。私達は、四天王みたいな立ち位置にいるよ〜。」

「俺は一秋。」

「私は冬二。」

「久しぶり。春三だよ。」

「もっと強くなったか?夏四だ。」

どうして…どうして、2人が…異能力について教えてくれた春三さんと…稽古をしてくれた夏四さんが…魔王四天王…なの?


「魔王四天王…?」

「何それ…意味分からない。」

「どうして俺達を修行させたんだよ。」

ありえない……おかしいよ…どうして…私は…戦いたくない……。

「魔王様が地図を渡したでしょ?」

「弱い人とは戦いたくないって言ってたから…。」

「…敬語忘れてる…」

「あ……でも大丈夫…多分…」

「あの〜?」

「あ…ごめん…なさい…」

「それじゃあ、始めますか。」

「その前にルール、決めませんか?」

「ルール?」

私は頷く。

「ルール…かぁ…互いに2つずつ出そうよ。」

「良いね。さすが春三はるみ。」


話し合う。ルールはなるべく、こちらにも有利になるように。


「どうする?」

「チーム内での異能力付与は必要。」

「1対1にしたほうが良さそうだね。」

「……」

夜月よつき?」

「殺さないでね…絶対に。」

「…攻撃魔法は禁止にしようか。異能力付与はいらないでしょ?」

流海りゅうかい、大丈夫?」

「…ああ。多分大丈夫だ。速度強化系の魔法を作ってある。」

思ってたよりも優秀になってるんだけど。

「それじゃあ、俺達のルールは、1対1の勝負と、攻撃魔法の禁止。で良いな。」

「うん。」

向こうも終わったようだ。

互いのルールを確認する。氷水ひょうすいが説明する。

「――こっちから提示するものは以上だ。」

冬二とうじさんが説明する。

「えっと……私達からは、異能力付与の禁止…だっけ?」

「合ってるよぉー」

「良かった…あと、夜月さんの……異能力無効化の発動を…えっと…」

「言おうとしてる事は分かるから大丈夫ですよ。」

「あ……良かった……!」

「それでは、進行役を務めさせていただきます。一秋かずあきです。最初の人、出てきて下さい。」

私達のところは、流海。対するのは、

「魔王四天王の中では最速!夏四なつし!」

自分で言うな!じゃなくて、流海、大丈夫かな。私は少し離れて見てるから〜。頑張って。

「始め!」

2人同時に走り出す。

金属音が鳴り響く。

夏四が言う。

「だいぶ強くなったなぁ。流海!」

流海が返す。

「当たり前だろ!師匠!」

一度離れ、2人共様子を伺う。先に動いたのは夏四だ。

「40%開放」

夏四は呟いた。と、同時に、夏四の走る速度が上がった。流海の後ろに回り、攻撃。流海はギリギリ受け流した。

「っ...!危ねぇ」

「今のを受け切るか…ならば、もっと速くするまで!70%開放!」

「まだ速くなるのかよ。」

「怖気づいたか、我が弟子よ!」

「いいや、こっちも本気で行かせてもらう。waterウォーター boostブースト!」

流海の速度が、夏四の速度を上回る。これは、夏四も想定外だった。

「(嘘だろ…異能力を使わずにここまでの速さとは。まずい。)90%開放!」

流海は微笑った。まだlevel1レベルワンの速度だからだ。

そう。流海は1ヶ月間、誰にも負けない速度になるまで鍛え上げてきたのだ。剣を振る速度も、前とは比べ物にならない。

「(悪いな、師匠。俺の勝ちだ。)level2レベルツー

夏四の最高速度を上回り、流海は夏四の首に峰を当て、夏四が気絶した。

「勝負あり!」

流海が勝った。

「やったね、流海。」

「ありがと。」

「さて、次は私の番だね。」

「頑張れよ。草香そうか

「ん」


「次の人。出てきてください。」

草香と相対するのは、

「草香ちゃんか〜。手加減はしないよ。」

春三だ。

「始め!」

「(春三さんは何をしてくるのか分からない。様子見で一回、攻撃してみようかな。)」

草香が飛び出し、攻撃。春三は反応が遅れた

「アグっ」

そのまま倒れた。

「えーっと…」

「勝負あり」

「春三…大丈夫…?」

「っ…痛て…あーあ、やっぱり負けちゃったかぁ…」


「次の人、出てきてください。」

火蹴かけると冬二が相対する。

「君は……えっと……」

「火蹴だ。」

「そう……それじゃあ、いくよ…」

「始め!」

「異能力……影狼かげろう

冬二の影から、黒い狼が出てくる。

「さぁ、行って…」

狼は吠えると、火蹴に向かって走る。

「遅いな。」

火蹴は影狼を斬った。冬二はうろたえる事なく、笑った。

「あ…残念…」

影狼は、2匹になった。

「(なるほどな。斬ったら斬った分だけ分裂するのか。それなら…)」

火蹴は冬二に近づこうとするが、影狼に邪魔される。

「仕方ない。斬るか。」

2匹同時に斬られた。火蹴は再生時間を利用し、一気に冬二に近づき、峰を当てた。冬二は倒れた。

「勝負あり。」

「あーあ……負け…ちゃった…」

「さすが火蹴。次が最後だよ。」

「俺の番だな。」

「頑張ってね。お兄ちゃん。」

「大丈夫だよ。」


「始め」

一秋と氷水が、同時に地面を蹴った。

「(最後に出てきたって事は四天王の中では最強なのだろう。)」

剣と剣がぶつかり、火花が散る。

互角。夜月達はそう思った。だが、2人共、まだ本気ではない。

「身体強化レベル1」

一秋の異能力、身体強化。その名の通り自身の身体能力、強度を上げる異能力。レベル3まであると言われている。

iceアイス fieldフィールドiceアイス bootsブーツ。」

要するにスケートリンクの上を滑り、スピードを上げる。氷水はハーフスケートを履いている。これはスピードを重視しているようだ。

「なるほど。これは滑るね。だけど、これで僕を止められるとでも!?レベル2!」

一秋が氷の上が滑る事を活かし、スピードを上げ、氷水の方に滑って行く。そのまま攻撃。

「クッ…危ねぇ…(まさか、有効活用してくるなんて。読みが浅かったな。それなら…こうするか。)」

スピードを上げる氷水。靴がいつの間にか変わっていた。加速しやすく、機動力のあるホッケースケートに変わっていた。

刃同士が当たる音が響く。

「ふ…やるね。」

「そっちこそ。」

「本気を出させてもらおうか。レベル3!」

一秋のスピードが上がった。流海よりも速い。

「こっちこそ、iceアイス shieldシールド!」

氷水は氷の盾を作った。


その後。勝負は一瞬で決まった。氷水が氷の盾で一秋の攻撃を防御。氷水の一撃が決まったのだ。

「勝負あり。」

「やったぁぁぁ!」

夜月達は喜んだ。

「ありがとう、皆さん!」

「………いつの間にか夜だ。」

「ここらへんに寝れそうな所はありますか?」

「ここで…寝れば…良いよ…。大丈夫…もう…負けちゃったから…」

「それじゃあ、お言葉に甘えて。」


・・・


朝になった。

「行こう。」

「「おー!」」

最後の戦いが、幕を開ける。


扉を開ける。

「よく来たな。人間。」

魔王。見た目は人間。頭部に角が少し生えているだけ。

「出たな!魔王!」

「これが魔王?」

夜月と日向と氷水のイメージする魔王とは違っていた。夜月は一度会っているはずだが、あの時は鬼のような形相をしていた。しかし、魔王はこの世界では人間のような見た目らしい。骸骨や異形ではないのだ。

夜月は、街で読んだ本のことが気にかかっていた。

魔王を殺す、または封印したら、モンスターがいなくなる。この世界でのモンスターは、人間以外の生物の事を指すと聞いた。よって、魔王は絶対に殺せない。殺してはいけない。

「日向、氷水、こっちに来て。」

夜月の考えを話す。しかし、これをこの世界の住民に話したらパニックになるかもしれない。夜月は、ここまで考えた。

「分かった。だけど…」

「何をコソコソ話しているんだ。」

「えーっと…」

流海に止められ、言葉が出なくなった。

草香が叫ぶ。

「魔王!絶対に殺す!」

「そうか。いつでもかかってこい!異能力、『属性付与』!」

属性付与。剣や魔法に加え、ただの椅子や魔法が使えない動物にまで属性を付与できる異能力。使い方次第でバフにもデバフにもなり得る。

流海の体が痺れた。麻痺状態だ。

「ウグ…」

これで相手が無抵抗のまま瞬殺できる。これにより、魔王は、最強だった。

「奪月」

夜月が、いなければ――。

「クックック……異能力無効化か。だが…それで我を死に追いやる事はできぬ!fireファイア tornadoトルネード

fire tornado、1人1人を炎の渦に巻き込む魔法。防御しなければ焼け死ぬ最上級魔法だ。

「やば!nightナイト boxボックス

夜月はすぐに全員を夜の箱で包んだ。箱の中はプラネタリウムになっており、攻撃を通さない。

「やるな。」

「そっちこそ!だけど!」

炎の渦が収まり、夜月も魔法を解除した。そして、日向達の方向を……

「え…?日向…?氷水?」

2人の姿が消えていた。

「どこ…行ったの…?日向ーー!氷水ーー!」

「夜月!危ない!」

魔王が、剣を振り下ろしていた。

「moon《ムーン》 barrierバリア

この一瞬で、夜月の考えが固まった。

「魔王、提案がある!」

「ん?」

「和平を結ぼう。」

「何言ってんだ!夜月!」

「こいつは、私達人間を襲う怪物だよ!」

「分かってるよ!だけど、だけど!魔王達から見たら、私達も怪物だ!私達はなんの躊躇もなくモンスターを殺して、モンスターはなんの躊躇もなく人間を殺す。どっちもやっている事は一緒なんだよ!」

「だからこの戦いは魔王を殺さなければ終わらないんだ!夜月!」

分かってる。だけど、魔王を殺したら…

「魔王を殺したら、きっと人間は食糧難に陥って戦争になる。」

「は?どうしてだよ!」

「モンスターが全て消えると同時に、全ての家畜も消える。そうでしょ、魔王。」

「なぜ分かったのだ。」

「昔の書物に、魔王を封印したら周りのモンスターが全て消えたという記述があったんだ。この世界でのモンスターは、人間以外の動物。そうでしょ。」

「……そうだね。」

「私はさ、ずっと考えてた。どうして家畜もモンスターなんだろうって。分かれば簡単だった。昔、魔王と人間は友好関係にあった。そう考えれば全ての辻褄が合うんだよ。」

「じゃあ、どうして今は」

「人間が増えすぎてしまったから、殺さなければいけなくなった。そうでしょ。」

「そうだ。人間が増え、大地が荒れ始めたのだ。」

「人間が生きているのは、モンスターという存在と魔王。共存の道しかないんだよ。分かってよ、皆。」

「…………」

皆、黙ってしまった。

草香が口を開いた。

「夜月、分かったよ。だけど、全ての人が納得するとは思えない。」

「全ての人が納得するなんてこと、ありえないから。大丈夫だよ。多分、今の関係が1番なんだ。」

「そっか…」

「…俺は、納得できる。だけど、望むのは平和な世界だ。」

「俺も、火蹴と同じ意見だ。」

分かってる。私も同じだ。皆、平和を望んでいる。

「私達の世界の話をしようか。そこは――」

そこは、魔王なんてものはいない。家畜がいて動物がいて。ゾンビはいないし、骨は動かない。笑顔が溢れている街がある。だけど、それはほんの一部でしかない。皆が貧しいところでは、食糧をめぐって争う。皆笑顔の街でも、人が多すぎて土地が足りなくなる。だから土地をめぐって争う。私達の世界で一番怖いのは、人間なんだよ。完全な平和なんかないんだ。人間がいるから。

「だからさ、魔王を殺すなら、争いが完全に防げる世界にしないといけないんだ。平和は望んでいる。だけど、平和は手に入らない。だから魔王を殺しても意味がない。逆に、殺さない事に意味があるんだよ。」


「そっか…帰ろう。もう…魔王を殺す理由はない。」

「うん。」

「また来ても良いぞ。」

「また会おうね!皆!」

夜月達4人は、魔王と四天王に見送られ、街に戻る。

teleportテレポート

一度行った場所に転移できる魔法。夜月の莫大なマナがほとんど消費された。



次の日。王に魔王とのやり取りを説明。

日向と氷水はもうこの世界にはいなかった。


また次の日。

夜月も消えた。


なぜ消えたのか、誰もわからなかった。


その後、流海と草香と火蹴は讃えられることとなる。魔王やモンスターとの共存を目指す事になる人類の、最初の功績者として――。

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