第6話 初デート。②
この辺りの映画館は大型ショッピングモールの中にあり、さほど人工が多くない地域なのでアニメ映画などはあまり上映されない。
だから地方のオタクは映画を見るために結構な遠征を強いられることが多いのだ。
それはさておき、何を見るかだ。恋愛映画を観ようと思ったのだが......
「何見る? アクション映画とかどう」
「折角だし何か泣けそうな恋愛映画とかはどうなんだ?」
「んー別に。どちらかが好きなのがいいと思う」
「じゃあ悠が決めていいわ」
悠は少しだけ思案して......
「『タコ怪人メリー』とか?」
それは何十年も前のB級映画のリバイバル上映だった。誰が観るんだろ。
===
「......」
結論から言うと集中して見れなかった。ゴア描写もあるにはあるが中途半端だし。何より、隣に居るのは美少女だし。
「どうだった?」
「聞かんでくれ......そっちは? 何か面白いポイントあったか?」
「いや、可愛くない? メリー」
今作の主役と言っても過言では無いであろうタコ型の怪人。こいつらに人々が襲われる光景はシュールという他なかったのだが。
「可愛いか?」
「うん」
あらら。すれ違い産まれちゃった。別にいいけど。
「分かった次も観よう」
二人で何かするだけで楽しい。そんな最高の状態だ。この熱が続けばいいと思う。
===
「そろそろ帰るか」
「そうだね」
あれからは書店とかをぶらぶら回っていて、直ぐに時間も過ぎていった。もうすぐ日も暮れる。
「お、坂と黒瀬じゃねぇか」
瞬間、低い、教室で見知った声がする。
「田中? どうしてここにいるの?」
田中由良、同じクラスのチャラ男みたいなやつだ。彼女を取っかえ引っ変えしてるみたいな噂があるが真偽は定かでは無い......
悠が先に口を開く。
「見かけてさ、黒瀬が坂なんかと歩いてんのが気になって来たんだぜ俺は」
「『なんか』ってどういう意味?」
「おぉ怖い怖い......ただ、もうちょいマシなヤツとつるまねぇかってだけだよ」
「それ、いくら私でも許さない。こっちの勝手でしょ? 口出さないで」
「おぉ......まぁやっぱそういうことか」
その言葉が何を指すのか、容易に想像できる。
俺はもう一度向き合おうと思った。
「田中。黒瀬とのことは誰にも言うなよ」
「言わない言わない。冷やかしに来ただけだって」
それならいいが、本心とはとても思えない。
「ふざけないで。行こ、裕也」
不意に手を握れられる。
驚いた。その声はいつもの悠とは違い、酷く冷淡だったから。
そのままその場から逃れる。田中はついてこなかった。
===
「いいのか? 放っておいて」
「もう公然の事実にしようよ。一昨日から決めてる」
昨日の悠の覚悟のこもった眼を思い出した。
「何でそこまで」
「分かるでしょ? 好きだから、だよ」
「だから、何で俺の事が......」
「当たり前に見てくれたから」
「ん?」
「凄いとか、可愛いとかそういうのじゃなくて友達として見てくれてる気がしたから」
「悠にも友達はいるだろ」
「いるけど......異性だと珍しいし」
まぁ。人が好きになるのに大した理由はないってことなのかもしれない。
「もう暗いし俺が送る」
「ありがと」
今日の日が暮れると同時に、新たな生活が始まったことを改めて実感するのだった。
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