第3話 温もり。発覚。

「返事聞かせてよ」


 これまで俺たちは自分の気持ちを隠して友達を続けていた。けどこの一件でそうもいかなくなった。だから、新たな関係を築かないといけない。有耶無耶ではなく。明確な。


 俺の中ではもう答えは決まっているが、このあたりだと生徒はほぼいなくとも人目がゼロではないのでちょっと危ない。見つかったらどうなるかも目に見えてる。


「ここで話すのもあれだし場所変えないか?」

「そうだね。じゃあ私の家でいいよね」


 俺の家はやばいくらい散らかってるしな。


===


 黒瀬の部屋。


 まず何を言うべきか。色々なことが頭の中で絡まって何も言えなくなるが、何とか整理して、伝える。


「まずは、ありがとう。俺と友達で居てくれて。黒瀬が居なかったら多分今めちゃくちゃ病んでると思う」

「うん」

「俺は黒瀬のことが感謝とか、憧れとかじゃなくてずっと好きでした。だからよろしく」


 呂律も回らず、勢いで誤魔化した感があるし、めちゃくちゃ女々しい告白だったと思う。


 けど、黒瀬は受け入れてくれたようだった。


「私、嫌な奴だよ?」

「いいよ。それでも。受け入れるって決めてんだ」

「ほんとに? 嫉妬もするし、嘘もつくし、行動も伴ってない」

「そんなもんだろ。嫌なことは言わなくていい」

「そう、か。ありがとう。


 瞬間、暖かい熱が、心地よい重みが、俺を包んだ。


 控えめな胸の感触と、いい匂いが伝う。


「今は顔見ないで。今、嬉しすぎてひどい顔になってる」

「受け入れるって言ったけどな?」


 そう言いつつも俺も全然平常心じゃない。


 遠くにいると思っていた女の子に好意を抱かれているという事実に今更、空へと舞う様な非現実感とそれ以上の幸福感があった。


「......バカ」

「バカってなんだよ」

「わからなくていいよ」


 そう言ってそっぽを向くのがかわいらしい。


 ただ、ずっとこうしていたいと思った。


 何時までそうしていただろうか。永遠にも、一瞬にも感じられる時間が過ぎていく。この温もりを忘れたくないと思った。覚えていたいと思った。


「ずっとありがとね。裕也。好きだよ」


 その一言だけで今まで生きてきた全部が報われた気がする。


「明日は何しようか」

「俺は何でもいいけど、強いて言うなら映画にでも行くか?」

「いや、一緒にギターの練習しない。誰かとやれば続くかもしれないしさ」

「んー確かに家にギターあるしやってみるか」


「今期のアニメって結構豊作なのか不作なのか分かんないよね」

「分かる。というか、前期が豊作すぎた節があるけど」

「あーまぁ鬼輝滅滅は面白いからいいか」

「あれ見てる人初めて見た......」


 そうやって友達の時よりもずっと近い距離で他愛もない話をして、さよならをした。



===


 翌朝の学校。


 特有の匂いがする靴箱から上履きを取ろうとすると、いかにもと言った感じの呪詛が書かれた紙が無造作に置かれていた。


『不釣り合いなんだよ黒瀬さんに近づくな』

『消えろ』


 見るに堪えない、嫉妬から来るだろう暴言の数々がそこにはあった。


 まぁ......バレたってことか。昨日会う時にでも誰かに見られたか。若しくは......いや、辞めておこう。彼女の友達は信用すべきだと思うし、それも含めての誠意だから。


 悪口を言われること自体はもう構わない。不釣り合いな事も重々承知だ。だけど、俺と付き合うことで黒瀬が傷つくのは嫌だった。


 教室には入っても奇異の目やあからさまな嫉妬を向けられる。


「黒瀬さん、坂のやつと付き合ってるのか?」

「いやぁないない。侮辱がすぎるだろ」


 お前がな。


 黒瀬もずっと男子達からの粘着を受けているようで、それが耐え難い。


===


 その日は黒瀬とも放課後に会わなかったし会えなかった。幸い、明日は休日だ。


 隠していたツケが回ったのだろうけどそれを提案したのが俺である以上。ケジメはつけないと。


 そう考えていると黒瀬からLINEが来た。


『私のせいで本当にごめんなさい。でももう一度向き合わせて欲しいです』

『あの時、敬語は辞めろって言ったのそっちだろ。明日また会おう』


 それだけ打って早めに寝た。色々疲れた......


===


 翌日。朝起きると直ぐにベルが鳴る。


「おはよう。裕也。今日は全部言っていいよ。私はちゃんと向き合うからさ」


 昨日と打って変わって、黒瀬は妖艶な笑みを浮かべ、玄関先に立っていた。

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