第2話 ちゃんと決める。
ほんとに俺はどうすればいいんだろう......
さっきの黒瀬の言葉や仕草から考えても、恐らく、確実とは言えないけれど、彼女は俺のことが恋愛的な意味で好きなのだと思う。
そして、あの時の彼女は自分の事を嫌っているかのようだった。
あんな事、言わないで欲しかった。今にでも会いに行って笑顔を取り戻したかった。
だけどやっぱり俺には分からないのだ。どうすればいいか。どう彼女の気持ちと向き合えばいいのかとか、その後どうすべきなのかとか、色々。
そして何より、仮にそうだとして俺と居ること自体そもそも間違いだったんじゃないのか? 元を辿れば彼女にあんな顔をさせたのも、俺のせいじゃないか。そんなに自責が、事実が俺の頭の中を覆い尽くす。
なら、終わらせよう。誰にとってもそれでいい。その方が、いい。
===
翌日、黒瀬はいつもと同じように友人と話しながら登校していた。本当に、いつもと同じ様に。
少しだけショックを受けたが、あれが嘘だったとか、そういうことでも無いのかもしれない。
――瞬間、俺に視線を寄越したように見えたのは勘違いだろうか?
多分、彼女はああするしかないのだ。黒瀬悠である為に、傷つけない為に。それが崩れてしまったからこその昨日のアレというのもあるのだろうし。
今日の放課後に都合が合うようなら俺はどうすべきなのか、ちゃんと伝えようと思う。
===
彼女は珍しく一人で帰っていたので、申し訳ないけど一緒に帰ろうと話しかけ、込み入った話は家でしょうと彼女が提案した。
なので、ここは黒瀬の家だ。中々この付近の家としては豪華な作りで入る前にどうしても身構えてしまう圧がある。でかい......きれい......
黒瀬の部屋はと言うと、いかにも女の子らしいと言うよりは整頓された綺麗な部屋と言った感じ。
他には三日坊主で辞めたらしいギターとかもあった。せめて1ヶ月位は続けなよと思う。
「坂、昨日はごめん」
早々に、黒瀬は頭を下げた。何だかめちゃくちゃ悪い事をした様な気分になってしまう。
「いや、大体俺も悪いから」
お互いが何を言うかを探り合うような、居心地の悪い沈黙が降りる。
「いや、でも私のせいだよ。全部隠して、勝手にそういう気持ちになって。明那に、私と違って真っ直ぐ伝えた明那に、叶うわけないって思って。逃げて、傷つけて......」
「辞めてくれ。そういうのは聞きたくない」
「ごめん。でも坂が自分を責める必要はないと思うよ」
「でもそんなことを言わせるまで追い詰めた俺の方も大分悪い。ごめん。気付かなくて」
「ありがとう。優しいね。坂はさ」
「優しくなんかない。俺は黒瀬には自分を責めないで欲しい」
「うん」
黒瀬はどこか安心したように、涙目ではにかんで笑う。
あぁ......やっぱり離れられない。離れられるわけがない。だけど、だめだ。このままじゃ。
「色々、あったよな」
「そうだね。でも、私はこういうのも含めて大切にしたいと思う。明那にもちゃんと謝るよ。臆病なままじゃ、卑怯なままじゃ居られないし」
「そうだな。告白は断ったから、まぁ......安心してくれ」
「あぁ......バレてたか」
「バレバレだよ」
確信はなかったけどね。
「そっか......それでも、坂は私と友達でいてくれる?」
「それなんだけど、今日で俺たちの関係はこれっきりにしないか?」
「え?」
彼女は存外に驚いて呆然としている。
「大体俺が悪いだろ。今回のことも。自分の時間を取れないのも。だから......」
「いやだ」
子供みたいな声だ。気づけば何も言えなくなってしまうような。
「それを言うなら私の為だなんて言わないでよ。馬鹿みたいじゃん。坂が私の事を嫌いになってないなら、一緒に決めたい。わがままだけど」
尚も彼女は続ける。
「私は、坂が嫌ならもう会わない。でも、私は友達以上になりたい」
その言葉はもう告白と言ってほぼ間違いなかった。
「えぇと、俺もごめん。もう言わない」
「いいよ。これで恨みっこなしね」
黒瀬は俺の憧れた、好きだった黒瀬悠に戻っていた。
「返事、また今度聞かせて」
「あ、うん」
「納得出来なかったなら、またちゃんと言う。もうそういうの嫌だから」
「分かった」
「じゃあね」
「俺もさ、考えるよ。どうしたいのか」
「そうだね。お互い。じゃあまた明日。ちゃんと決めよ」
「あぁ」
黒瀬の家から出るともうとっくに日は暮れていた。だけど、今日も沈んでしまった夕日とは裏腹に俺の心は少しだけ昨日より楽になっていた。
===
翌日の放課後。
「まずは......返事聞かせてよ」
まぁ......俺だけ逃げる訳には行かないか......
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