最終話 これからの幸せを

 晴天から強い日差しが穏やかに流れる川の水面に注がれる。その川とフェンス越しに挟んだ岸辺の道を俺と栗之先輩はゆったりと歩いていた。


「カニクリームコロッケおいしかったね」

「クリームに味がしっかりと凝縮されていて良かったのでまた来たいですね」


 俺と栗之先輩は先ほど洋食屋で昼食として食べたカニクリームコロッケの話をしていた。両親との話から数日が経過した今日、俺たちは地元から離れた場所に出かけに来ていた。


「最近、お父さんとお母さんの仲が以前よりも良好なんだ。食事中に話も和気あいあいとしてるし」


 笑顔が広がった表情を栗之先輩は見せる。永松家の関係が良好なのは問題に関与してきた俺としても望ましいことだった。


「幸せなのが一番ですし、良かったですね」

「松貴くんが力を貸してくれたおかげだよ」


 栗之先輩は顔だけ前のめりになるように俺の顔に近づける。目の前に映る栗之先輩の微笑みに俺は瞬きをせずに見てしまい体中が急激に熱くなる。


「……自分はあまり力添えできた実感はないですけど栗之先輩の力になれたなら光栄です」


 俺は視線を栗之先輩から外しながら言葉を返すと胸に手を当てる。心臓の鼓動の間隔はかなり短くなっているのが手に伝わってくる。


「松貴くんのご家族は最近どうなの? ご両親が考えを改めて松貴くんが実家に帰宅したまでは聞いていたけど」


 俺は頭を掻きながら質問に答える。


「あれから父さんがおじいちゃんの見舞いに行ったりして家族に進展があったんですけど、姉さんはまだ父さんのこと許す気はないみたいで。まあ姉さんの場合大きな確執があるので今後どうなるかは弟の僕でも分からないですね」


 あれから俺は実家で戻って暮らしている。姉さんには両親との会話の内容と父さんからの伝言を伝えた。その結果姉さんは父さんへの怒りを示しつつも父さんがおじいちゃんの借金を肩代わりすることを容認し、おじいちゃんの入院先を教えてくれた。前には進歩しているが姉さんが抱いている父さんへの憎しみが和らぐかどうかは不透明だ。


「松貴くんのお姉さんは確かに許すにしても相当時間かかりそうね。けど松貴くんのお父さんがおじいさんと会ったことは今後に繋がればいいね」

「時間がかかっても家族がまとまっていくよう僕はまた頑張ります」


 俺は栗之先輩の目を見据えながら張りのある声を発した。栗之先輩からは「頑張ってね」と柔らかい口調で俺に言ってきた。栗之先輩はそのまま歩み続けるが俺は立ち止まり目を瞑って息を整える。そして目を開き大声で栗之先輩に呼びかけるが声がぶれてしまう。


「栗之先輩、少し止まってもらっていいですか」


 栗之先輩は足を止め俺の方を振り向くが表情に柔らかさはなく目を大きく開いていた。


「どうしたの松貴くん」


 栗之先輩から要件を尋ねられる中俺は目に力を込めて栗之先輩を見詰める。


「栗之先輩のことが大好きです。僕と付き合ってくれないでしょうか」


 声を出した後心臓は高鳴り呼吸も荒くなる。視線は栗之先輩から何度も揺れるがそのたびに視線を栗之先輩に戻す。栗之先輩は手を組むと微笑んだ。


「告白してくれてありがとう。わたしでいいなら付き合うよ」

「これからよろしくお願いします」


 俺は栗之先輩のもとへと駆け寄る。俺の顔には笑みで溢れていた。俺たちは再び歩き出すと栗之先輩が話しかけてくる。


「松貴くん二人で絶対幸せになろうね」


 栗之先輩の言葉に俺はすぐさま返事をした。


「はい!」

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ほつれ家族 湧谷 敦滋 @rizokipeke

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