第27話 家族との時間
「またね松貴くん」
「それじゃまた月曜日に」
俺は手を振る栗之先輩に見られながら栗之家の扉を開け外へと出る。道路へと続く階段を下っていると、階段と壁で隔たれた左側にあるガレージの方から車が駐車する音が生じる。俺は一瞬左側の壁を目にするがすぐに正面に向き直す。最後の一段に足を載せてたとき目の前から一人の男性が現れ、俺の瞼は釣り上がりそれにより目に力が入る。
「こんにちは」
「君は松貴くんか。こんばんは。まさか遊びに来ているとは思わなかったよ」
栗之のお父さんは口を動かすが表情はどこか硬い。俺はぎこちない笑みを作りながら栗之お父さんと目を合わせている。
「それでは失礼します」
俺は頭を下げながら歩きだし栗之のお父さんとすれ違う。すると栗之のお父さんは言葉を発したが声を出すたびに音量が沈んいく。
「松貴くん帰り際で悪いのだが栗之の友人である君に少し話を聞いてもらえないかな」
俺は立ち止まり栗之のお父さんの方に体ごと向けると「そうですね」と言葉を発する。そのまま道路側に顔を下げスマートフォンを取り出し時刻を見る。数秒立つと頭を上げて言う。
「このあと姉と買い物があるのであまり時間は取れませんがそれでもいいでしょうか」
「ああ、五分程度で構わないよ。本当に助かる」
栗之のお父さんは表情を引き締めて深々と背中を曲げた。
「僕は話を聞くだけなのでそこまでしてもらわなくてもいいですよ」
俺は舌を振るうが声は普段よりも高く、早口で話していた。そして俺は顔をしかめながら細めで頭を下げた栗之のお父さんを見つめていた。栗之のお父さん顔を上げ直すと胸に手を当て小さく息を吐いた。
「松貴くんには色々と感謝することが多いね。それで相談の内容だがおそらく娘の口から知らされているかもしれないが、わたしは家族との関係はあまり良好ではない。このことは知っているかね?」
「栗之先輩からは家庭事情についてはある程度聞かせてもらっています」
栗之のお父さんは「そうか」と頷くと話を続ける。
「わたしが仕事にこだわるあまりに家族に気配りできずにいた。それが原因だ。最近も娘にその関係で指摘されることがあってわたしは逆上してしまった。本当にわたしは父親としてあまりに不出来だ。だから娘の友人である君に聞きたい。わたしは父親としてこれからどうすればいいと思う?」
話し終えた栗之のお父さんは口を噤み顔を少し下げる。俺は口を閉じながら顎に手を当てる。数秒程度、二人の周囲に人声はなくなり、微風が二人の間を横切る。やがて俺は手を下げ栗之のお父さんの質問に返答する。
「反省してもいいですがいつまでも自分を責めないでください。むしろ奥さんや栗之先輩のためにも出来る範囲で家族と接するようにしてください」
「家族との時間は増やしているつもりだがそれだけでいいのか?」
栗之のお父さんは何度も瞬きをする。
「よく考えてください。今まで家族との時間が少なかったはずです。なので今は家族との時間を増やすことが大切なんです。それ以上のことは必要ないんですよ」
俺は力の入った声で言う。
「それもそうだな。松貴くんありがとう。心が軽くなったよ」
栗之のお父さんの表情は柔らいでいく。それを目にしていた俺の顔にも笑みが広がっていく
「それじゃ僕はここで失礼します」
「今日はありがとう。また家に遊びに来てくれ」
俺は栗之のお父さんに軽く頭を下げると永松家から離れていく。
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