第21話 家族の会話

 学校の終わりが晴れ渡った帰り道を栗之先輩と共に進んでいた。プラネタリウムの日から四日が経過している。告白仕掛けたあの日とは違い現在は恋心が感情の全面に出ない。それでも以前よりも栗之先輩との居る時は楽しくなっていた。


「そういえば松貴くん昨日ね、家に帰ってお父さんと進学の件話してきたよ」


 あまり冴えない顔をして栗之先輩は話しかけてくる。その様子から俺は手厳しい展開を覚悟していた。


「お父さんから服飾専門学校への進学許可貰えたよ」


 語られた内容は表情から伝わる印象とはかけ離れており、祝っていいのか困惑してしまう。それどころかあまり良くない予感ばかりが頭の中に流れ込んでくる。


「認められたんですね。けど表情からして何かありました」


 形式上だけでも祝おうかと考えたが、表情からして何かを伝えたいのは分かりきっていたため歩く速度を落として事情を聞くことにした。


「もしかして顔に出てた? 心配させてごめんね。実はね許可もらったときにお父さんに『父親失格だな』って告げられたの。それでわたしも今の状況を素直に喜べなくて」


 栗之先輩から事情を説明されて俺は唇を噛み締めた。栗之先輩のお父さんは自分と家族の状態を理解していたみたいだ。だからこそ罪悪感で「父親失格」という言葉を口にしたのだろう。


「栗之先輩のお父さんも色々と悩んでたみたいですね」

「わたしも『父親失格』って言葉を聞いた時はお父さんもこの現状に思うところがあったはずなの。それでも自ら解決に乗り出さなかったのはやっぱり仕事に追い込まれて他のことに動くだけの気力がなかったんだと改めて実感した。夫婦仲が悪化しているのも自覚していたけど、その状況を改善できない自分に苛立っていて、だからこそ誰かにそのことを指摘されたくなくて、わたしがお母さんと仲を改善するように頼んだときに、そのことで機嫌を損ねて怒らせたと今になっては感じるの」


 悲しげな瞳で下を見ながら栗之先輩は歩いていく。永松家の事情を聞いて改めて家族のコミュニケーションは大切でありそして繊細で複雑だと痛感させられる。


「親子であってもやっぱり中々他の人の気持ちを理解するのは壁が高いですね」

「わたしも自分のことばかり考えすぎてたなって今は後悔している。もう少し勇気を持ってお父さんと接するべきだった。そうすれば一人暮らしする必要もなかったと思う」


 早口で気持ちを露わにしていく栗之先輩。その声調は目立つほどではないが少しばかり荒れていた。そして栗之先輩は立ち止まってし

まう。俺も一緒に立ち止まって栗之先輩の様子を留意するが数秒立っても足は上がってこない。強い自責の念に囚われた栗之先輩を励まそうと俺は声を出す。


「今すぐに今までの家族の問題が解決するは厳しいかもしれません。だけど親子三人で話し合っていけばいつか理解し合える家族になれ

ますよ。今だって家に帰宅する回数を増やして話し合おうと努力しているじゃないですか。だから前を向いて歩いて大丈夫ですよ」


 伝えたいことを話した俺はただ栗之先輩の様子を見守る。すると栗之先輩は自分の状態を呆れるように苦笑いする。


「もう少し自信を持ってこの問題には向き合わないと駄目だよね。ありがとう松貴くん」


 栗之先輩から強い意志を感じ取ると、栗之先輩は再び足を前に進めだす。その光景を見て俺はほっとすると昨日見たドラマの話を振りながら栗之先輩に付いていく。

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