蛇足(過去話) 愛花の日常料理編

 今日、愛花は農家のおじさんから野菜を貰った。ダンボールいっぱいに詰め込まれた野菜に、興奮が抑えきれなかった。歓喜の舞を披露しそうだった。


 母が出かけているので、隙を見てトマトときゅうりを食べようと思います。


 家の裏手にある、天然水が飲める場所に向かう。

 山の上から水を引いてるから、すっごく冷たい。


 そこに、ボールと重ねたザルに入れたトマトときゅうりを置く。


 さーさーと、水が野菜の上に落ちる。水が溢れて、下の排水溝の網状になった場所から、流れていった。


「……さてと」


 きゅうりは冷やして、マヨネーズで丸齧り。

 まずは、先を少し齧って捨てる。

 バリボリボリ。しゃくしゃくの食感は、おやつになるのでとても好き。みずみずしさと冷たさ。


 世の中の全てに感謝しながら、食べていく。


 トマトも冷やして、ヘタをとって〜、かじる。じゅわっと水分が溢れて口をつたうので、慌てて顎を抑える。甘い!! 果物みたい。


「美味しいぃぃ!!」


 愛花は、頬を押さえてその美味しさをしばらく味わっていた(1人で)。


 1人だからこそ、行儀が悪くても関係ない! この贅沢は敵じゃない。


「…………」


 横にいる誰かも、関係ない!!




 夕食を作る。


 汁物はなんとなく、シンプル。

 えのきと玉ねぎのお吸い物。冷製スープでも良いかと思ったけど、ちょっとアンバランスな感じがしてやめた。


 オクラは茹でて〜、手早く切り、鰹節をかけ、だし醤油で混ぜる。混ぜる。食感を良くするために、山芋の細切りを入れることもあるけど、普通にこれだけで美味しい……。同じくネバネバの納豆なら、ネギを山程のせて、ゆっくり混ぜるのが好み。

 そうめんのタレにしたりも良いけど、やっぱり白ご飯にかけて、食べるのが好き。かきこんで食べると、美味しさが倍になる。


 ナスはメインに使う。ピーマンみたいに、ひき肉を乗せてすりおろしりんごの甘だれをかけて食べるのも美味しいけど、やっぱりそのまま食べたい。という事で、ちょっと衣に味をつけた天ぷら。

 空気に触れると変色して茶色に変わってしまうので、切るのは最後。少し厚めに斜め切りして、天ぷら衣につけて揚げる。

 大葉の葉っぱを下に添えて、完成。


 炊飯器の音。ご飯が炊けた。しゃもじでサッサと混ぜ合わせて、また蓋を閉める。


 もうそろそろ母が帰ってくるかな……。


 食卓の用意を始める。お盆に乗せて運ぼうと思ったが、お皿やお箸、コップ。……なにやら、ようせいが先に置いておいてくれていたようだ。

 

 テーブルの上のセッティングも終わり。


 しかし、何か足りないなと思って、とりあえず、他の野菜も揚げる。玉ねぎとにんじんのかき揚げ。ピーマン。舞茸。オクラはやめた。


 ちくわも揚げた。チーズも揚げる。このままだと、冷蔵庫のものをほぼ揚げてしまうかもしれない。


「揚げたら、美味しいものって多い……」


 食べ切れるはずもないのだが、料理がストレス発散の彼女には、誘惑が多すぎる。いつものことだが、明日の朝ご飯になることだろう。


 そこで、玄関が開いた。火を止めた。


「おかえりなさい」

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