第25話

「「……来い!!」」


禍々しく笑うルヴェールは、傍から見ても迫る攻撃を避ける気配を纏っておらず――否、そもそも避ける避けないの二択を選ぶ時間など無いほど早く、一閃は迫っている。

それでもルヴェールが選択をしたように見えたのは、戦いに対する覚悟と信念の表れであろう。

衝撃の余波で軽々と地面を抉るその攻撃は、普段の戦闘ならばリヴァが使うことのない技だ。

溜めに時間がかかりすぎるし、且つ敵が自身の直線上に来なければ当てることすらままならない。

瞬間火力と、追尾を捨てた末に手に入った神速。

ファーシスの努力と、ルヴェールの生来の気質ありきでようやく直撃が狙える代物だ。


「その代わり、威力はお墨付きだよ!」


悦びを隠しきれないルヴェールが、リヴァとの間に高密度の瘴気で構成された壁を生成する。

先程の光の槍ですら、破るのは容易ではないだろうその壁を――閃光は障子を指で破るかのように軽々と突破した。


「「――!」」


嬉しそうに顔を歪ませ、笑顔と言うには禍々しすぎる表情で、ルヴェールは連続で瘴気を生成し続ける。

1枚のときはすんなりと貫通した閃光も、高密度且つ高速で展開され続ける障壁にはいくらかの減速の兆しを見せた。だがそれでも、神速と形容するに相応しい速さだ。速さは直接威力の高さに繋がる。神速と言えるこの閃光は、ルヴェールもあたればただでは済まないだろう。


「「……さて、『黒瘴 纏』」」


白い手を握り、拳を作る。

呟く言葉と共に拳に纏われる瘴気は、遠目で見てもはっきりとわかるほどの漆黒であり、それはそのまま高密度の瘴気であることを示していた。

その瘴気で拳を固め、ルヴェールは迫りくる閃光へ迎撃準備を済ます。



――刹那、両攻撃、激突す。


          1


「……聞いて、みる?」


――戦慄、そして冷や汗がうなじを伝う感触。

警鐘が鳴り止まない。本能が、今すぐ引き返せと叫んでいるのだ。


「さ、おいで。イベリス」

「――」


空気が張り詰めていく。何か一つでも失言をしたら、即座に戦闘に移行するであろうこの空間において、しかしどこかミカレは安堵しているところもあった。

それは、これ以上自体が悪くならないという一種の願望によるものだった。

――そして、その硝子で支えられた願望はいとも容易く瓦解することを、このときのミカレはまだ知らなかった。

花をかきわけ、または踏みしめながら、こちらに向かってくる足音がある。

その足音に、聞き覚えが嫌と言うほどあったから。


「……サタ」


口の中で呟いた、誰にも届かぬミカレの小さな声と同時に、サタが姿を表した。

当然だが、見た目はどこも変わっていない。天使の証拠である輪っかはそのままだし、着ているものも特段変わったわけじゃない。


「サタ」

「ね、イベリス。貴方この人と一緒にここを離れたい?」

「急に呼んで何聞くかと思えば……私は――」


ミカレの心臓が早鐘を打つ。

これで決定的な返答を聞いてしまえば、手遅れになってしまう。

その、前に――、


「イベリス! そのっ、君は記憶喪失で、だからっ」


今、伝えないといけない。


「君はイベリスじゃなくてサタっていうんだ」


引かれてしまったとしても、今、ここで、この場で――!


「俺たちと一緒に、帰ろう!」

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