20話目
『ミカレ。お前に、先に伝えたい』
機械越しに聞こえる声は、まさしく義一のものであった。
厳粛な雰囲気を纏った声。
ミカレは眠る前まで義一のことを悪く言っていただけに少し気まずい気持ちを勝手に感じていた。
「あ、あの、なんで俺に」
『皆がサタを助けたいのはわかってるが……その中でも特に、お前が1番助けたい思いが強そうに見えたからだな』
「……サタ、は……」
――サタはもういないんです。と、ミカレは伝えることができなかった。
「……隊長。ごめんなさい」
数秒の思案だった。
ミカレは目をつむって、何かを思案し、思考し、考えて――再び見開いた芥子色の双眸は、決意が固まった目をしていた。
『――? いきなりなにを……』
プツッと、通信機器の切断音が小さく鳴る。
もう、隊長に迷惑はかけないように。
ミカレは立ち上がった。
他の天使達にも、随分と時間と迷惑をかけてしまったのだ。
――1人で、やるのだ。1人で、助けるのだ。
「……迷惑をかけた、責任をとれ」
アバンと口論をして記憶を失っているイベリスを逃してしまい、そしてイベリスと共にいる少女の情報すら引き出せていない。
――だから、責任をとる。
テントは4方向から入れるようになっており、アバンやカイザンがいる方とは逆の方向から、ミカレはひっそりとテントを出た。
『この方法』をすると他の天使達に伝えれば必ず止めるだろう。
「……攫われたサタと一緒にいるなら、攫ったのはあの女の子か……?」
ミカレは天使達に声が聞こえない距離まで離れる間に、1人で思考を固めていく。
――もしサタを攫ったのなら、同等の実力を持っていると考えるべきだ。
宇宙基地では見かけなかった顔だから、地球での生き残りであることは間違いない。天使の輪っかと羽があったので天使であることも確定である。
ということは地球がケガレに侵食された当時から対抗手段があったことになってしまう。
「……それだと逃げた理由が付かない」
ならば、何故地球に天使がいるのか。
――答えは1つである。
「……ケガレが生まれるより前に、作られた天使ってことだ」
だが、当時から天使がいたならば何故宇宙まで逃げたのか――、
「……1人なんだね」
「きたか」
思考が結論に辿り着く前にミカレの目の前に現れたのは、ミカレ達を眠らせた金髪の少女である。
そして、ミカレは予め決めていた切り出し方で会話を始める。
「――取引しよう。俺を材料に」
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「いきなりなにを……」
伝えたい言葉を言い切る前に、通信の切れる音が耳に聞こえる。そして義一は即座に切られたことと、ミカレが勝手に行動をすることを理解した。
即刻、通信を他の天使達の通信機器に繋ぐ。
「ミカレが1人だ。そこにいる5人は2人が捜索、3人がサタの救出に行くぞ」
そしてそのまま、天使達にとっての吉報であろう情報を上乗せする。
「――サタの居場所を割り出した。突入方法を、教える」
――そして、それと同時刻。
探索船の外で、2人の天使――ファーシスと、リヴァは、翼の翻る音が響く空を見つめていた。
予想通り、と言うべきか。
「……やっぱりきたね」
リヴァが呟くと同時。空より翼を持ちし恐竜型のケガレが飛来した。
「「出迎えご苦労様。娘の頼みだ。――容赦なくゆくぞ」」
と、全力で戦闘すると言葉を告げながら。
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