19話目
――目が覚めて見えたのは、曇りきった空だった。
晴れることはない、灰色の雲だけが広がる、空。
そして段々と倒れる前の記憶が蘇ってくる。
ミカレと言い合いになり、そして――記憶を失ったサタが現れて、眠らされてしまった。
「……っ!」
そしてようやく、アバンは寝転がっている場所が外であることに気付いた。
跳ね起きて周りを見渡せば、既に他の天使達が周りの警戒とアバンの見守りをしていた。
「……あ、起きた」
聞き慣れた少年の声。いつもアバンをからかってくる、いつもの声。その主はカイザンだ。
「……カイザン、ミカレは?」
「あー……テントの中だけど、今は近づかないほうが……」
「ありがとう……!」
カイザンから居場所を聞き出し、忠告を聞かずに立ち上がってテントへ駆け寄る。
天使総員の7人が丸々入れる大きいテントで、その中に入れば真ん中にぽつんと座っていたのはミカレだった。
「……ミカレ」
「――」
座るというより、膝を抱えているミカレの背中に話しかける。返事はない。
「……ミカレ、ごめん。色々言い過ぎちゃって」
だが、アバンは返事がなくとも謝るべきだと思った。だから言葉を必死に考えて、ミカレに謝罪の言葉をたむけているのだ。――だが、
「……アバン、ごめん」
「いや、ミカレは悪く……」
「違う。そうじゃなくて……。――1人にしてくれよ……お願い、だから」
――そこでアバンは始めて、ミカレの声が涙ぐんでいることに気が付いた。
それに気づいて、更にその原因もなんとなく察することができてしまったアバンはもう何も言えず。
ただ、小さく「ごめん」とこぼしてテントを後にすることしかできなかった。
1
「……なにやってるんだろうな、俺」
先刻から卑下の感情がとめどなく溢れてくる。
――義一を疑い、アバンと言い合い、挙げ句の果てにはサタの記憶喪失だ。
もう、自分など必要ないのではないのだろうか。
「……はは」
何時までも、どれだけ経っても、サタ――否、イベリスの困惑する表情が忘れられない。
――脳裏に焼き付いて、消えないのだ。
「サタ……好きって……」
そう、気持ちを打ち明けたかった。
話しかけた時、振り向くと揺れる象牙色の髪が好きだった。優しく微笑む笑顔が好きだった。
その、誰にでも優しい性格が好きだった。だから、ミカレもアバンなどを気にかけるような性格になったのに。
――もう、サタはいないのだ。
代わりにいるのは、全く同じ容姿で性格で声の、全く違う少女のみ。
優しさが同じなだけに、重なって見えてしまうのだ。
「……はは」
もう何度目かもわからない、乾いた笑い。
何もやりたくないような倦怠感が全身を支配して。
なのに何故か涙が頬を伝って。
このまま眠って、いっそ邪魔者は消えてしまおうかという考えすら頭をよぎって――、
『ミカレ、先にお前に伝えたい。――サタの居場所がわかった』
だからこそ、通信機器から聞こえた厳粛な声がミカレの耳朶を打ったとき、その声を嘘だと疑ったのだ。
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