16話目
「……わたし、誰……?」
木で作られた固いベットの上、象牙色でボブの髪を揺らす少女が周りを見渡す。
3畳間程で、木でできた何もないような部屋だ。
床の木を軋ませながら、少女はベットから降りる。
そして、目の前にある暖簾がけの玄関から外に出ようと一歩を踏み出そうと――、
「あ、起きたんだ。おはよ」
「うひゃぁっ!?」
その瞬間、暖簾の外から現れた金髪の少女を見て、少女は可愛らしい悲鳴をあげてしまった。
「……ねえ、ここってどこなの? ――わたし、誰なの……?」
不思議な少女だった。頭には天使のように輪っかが浮かんでいて、きれいな、純白の羽根も背中から生えている。
――最早、藁にも縋る思いだった。なにも頼れるものがない状況、きっと自分をベットで寝かせてくれていたこの子は味方だと、そう願いたかったのだ。
「貴方の名前は、私も知らない……」
「そう……」
互いに目を下にして俯いて、静かな時間が流れる。
ふと、金髪の方の少女が思い出したように自身のハーフパンツのポケットを探り出す。
がさごそと手を動かして、ようやっと引き抜いた手の中には――、
「……花?」
「そう。お花。私のお父さんが言うには、これイベリスって言うの」
「イベ、リス」
こくりと、金髪の少女が頷く。そして、静かな時間がまたしても訪れるより早く、もう一度金髪の少女が口を開いた。
「この花、貴方の名前にしましょう。貴方はイベリス。これでいい?」
「わたしが、イベリス……」
少女から花を手に取り、少しよれてしまったその花を、少女――イベリスは、しばし眺めてから自分のポケットにしまった。
――大事に、世界でそれしか、頼れるものがないかのように。
「わかったわ。わたしはイベリス。……それで、あなたは?」
「私は……フィム。ここで育って、今はみんなを殺そうとしてる奴らを殺すことを目的にしているの」
「……なら、わたしもそれ手伝うわ。あなたが名付け親みたいなものだし」
金髪の少女――フィムは、そう言われて少し驚いたような顔をしていた。無表情な少女だが、それでも感情を持っていると認識できる、そんな顔。
「……じゃあ、よろしく」
「うん、よろしく」
2人の少女は、小さい手と手で、しっかりと握手をした。
「……今更だけど、お花貰ってよかった?」
「ふふっ……勿論」
フィムが小さく笑って返事をする。
――そんな、平和の象徴のような1幕もあったことを、ここに書いておこう。
1
――全く見つからない。
アバン達のサタの捜索は、今のところ困難の兆ししか見えていない。
崩れた建物に、ガラクタしか散らばっていない広場。無関係のケガレも出てくるので、そう簡単に見つかるものではないのだ。
休憩無しで、既に半日は探し回っている。サタが攫われたところの周辺は勿論、そこから更に何キロも離れたところまで見に行っているのだ。
『どうだ、何か見つかったか?』
「全然だめ。なんにも見つからない」
通信機器を通して、アバンと義一は会話する。
小型のトランシーバーのようなもので、ついでに画像なども送れる優れものだ。
だが、見つからない。
――日が落ちて、また登り、また落ちて。
探索船のときは素早く行動をできたのに、今となってはまるで見つからない。サタを見つけるためだから、天使達は皆全力で探している。
「まだ見つからないのかよ」
「……ミカレ」
義一は天使達に、周辺の地形を紙に書いて画像として送れと言われて、それを暫く繰り返している。
だが、一向に見つからないのも事実だ。
既に半週。1番必死に探しているのはミカレだ。
「……隊長もさ、なんも策ないんじゃないの」
――小型通信機器のスイッチを切って、ミカレがそう呟いたのは、半週の日が落ちて火を焚いていたそのときだった。
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