11話目

「……うん、もう大丈夫だ。――今日から探索に戻っていいよ」

「ありがとうございますっ!」


肩を叩かれて、完治の太鼓判を押されたリヴァは、上機嫌でアバン達の元へ向かおうと医務室を出て走り出す。

――今日から、また3人で探索開始だ。


「――リヴァ兄!」

「アバン!」


医務室を出た直後、早速アバンと出くわした。

探索ができると喜ぶリヴァに対して、どこかアバンは焦った様子だ。――何かあったのだろうか。


「今日から探索オッケーだってキリュウさんが……」

「今それどころじゃなくて……っ!」


話を遮られて、むっとするよりアバンにしては珍しいという感情が湧いてくる。

だが、その感情も次の瞬間には霧散した。

――だって、


「サタが行方不明なんだ!」


と、治ったばかりの体に早くも衝撃を与える情報がリヴァの耳に飛び込んできたからである。


          1


時刻は、アバンがリヴァに話をするその日の、昼に遡る。


「……今日の探索もなんもなさそうだなー」

「油断しないの。隊長にも言われたでしょ」

「へいへーい」

「真面目に聞いてないでしょ……」


サタが前を歩き、その後ろではいつもの通りのやりとりが繰り広げられている。

先程から20分に1体のペースで動物型のケガレが襲いに来るが、前を歩いているサタが全て一撃で葬っている。おかげで、スティーグスとレジィは1度もまだ魔法を使っていない。


「これさ……いつか終わんの……?」


段々と飽きてきたスティーグスから、その飽きてきたという感情をそのまま声音に込めて発言する。

それに、朝から始めたもう昼過ぎだ。1度昼食をとるべきである。


「一旦、戻る?」

「僕お腹へったー」

「あんたなんもしてないでしょ……」

「それはレジィもじゃん」


正論を突かれてしまったと、レジィが痛い顔をする。


「じゃあ、戻ろっか」

「おー戻ろー」


サタの発言に賛同するスティーグスが回れ右をして探索船に向かおうと一歩足を踏み出す。

――その足に鞭が迫った。


「っ! 『ファスト』!」


スティーグスが目を見開いて、しかし魔法の発動によりその鞭を後ろの飛び退くことによって回避した。

スティーグスの魔法は、自身の速度を上げるという単純な魔法である。単純だが、速度を上げすぎると自身でも扱いきれない速度になるため扱いの難しい魔法である。


「――ッッッ!!」

「……これがサタの言ってた」

「異形の……」


現れたのは、鳥のような形をしたケガレだ。

ただ、大きさが通常の鳥ではない。

例えるなら、恐竜期のプテラノドンである。全長5m程の、空を縦横無尽に飛び回る化け物だ。


「『サンダー』」


初めてのタイプのケガレとであうスティーグスとレジィと違い、サタは1度同じような大きさのケガレを見ている。だからこそ、3人の中で最も早く動くことが出来たのである。

――しかし、


「当たらない……」


サタの繰り出す魔法『サンダー』は自由自在に雷を操れるが、まだサタは使いこなしきれていない。

できるのは、軌道を少し曲げるほどである。


「2人共、ちょっと手伝ってくれ……」

「――貴方はこっち」


空を飛ぶケガレを倒すために、3人で協力して倒そうとサタが提案をしようとした瞬間、その3人の誰でもない少女の声がサタの耳朶を打った。

そして現れた少女はサタの白Tシャツの襟を掴み、サタを投げ飛ばして2人との距離を確保される。

その距離、2人が豆粒ほどに見える程である。

――今の1度の投げ飛ばしでそこまで飛ばすことのできる力、非常に厄介である。

サタと相対するのは、最早ボロボロで煤だらけの白Tシャツをきる金髪の少女である。


「……あなた、何者?」

「――教えない。でも、貴方には死んでもらう」


かくして、サタは予想外の敵との戦闘が始まった。

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